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今回の参議院選挙で見えたもの
〜社会保障を軸とした有権者意識の変化〜
●  世相を浮き彫りにした参議院選挙
  参議院選挙が終わり、「自民凋落・民主躍進、そして二大政党制の時代へ」という文字が、マスコミを賑わしている。その一方で、当選した議員のプロフィールをこと細かに眺めていくと、もう少し違った側面から時代の移り変わりを垣間見ることができる。
  一番分かりやすいのが、自民党の比例代表で当選した議員の出身母体だ。かつては凄まじい集票力を誇っていた建設業界や農業団体の威力は陰を潜め、代わって医療や福祉といった社会保障分野の元気さが目につく。
  例えば、日本医師会の常任理事が比例代表の個人名得票で25万票以上を集め、自民党比例代表で当選ランクの5位を確保している。もともと医師会関連は、自民党の支持母体の中でも力のある存在ではあるが、前回の選挙であの武見敬三氏が獲得した得票が22万票に留まったことを考えれば、自民党に逆風が吹いた中での今回の得票は注目に値する。
  また、やはり自民党比例代表で、当選ランク7位に全国老人福祉施設協議会会長が入っている。言うまでもなく、こちらは介護福祉の分野からの政界入りとなる。高齢者介護に関わる団体から比例上位で国会議員が誕生したというのは、まさに時代を反映した現象と言っていいのかもしれない。
  考えてみれば、年金改革のように社会保障制度の将来像が大きな争点となった選挙というのも、過去にはほとんど例のないことである。目先の景気対策よりも、子や孫の世代の社会のあり方を重視した有権者が増えたという点では、求められる国会議員像も確実に変わってきているのだろう。
  こうした流れを頭に入れながら、選挙後の永田町の動きに注目してみたい。
●  社会保障制度の行く先
  小泉政権が誕生して以来、社会保障論議の場で何かと話題になっていたのが、経済財政諮問会議が取りまとめる経済財政運営の基本方針、いわゆる「骨太の方針」である。先に参議院議員を輩出した日本医師会は、この「骨太の方針」について、「経済財政主導の論理によって社会保障制度を抑制するもの」として真っ向から異を唱えている。今回の選挙結果を受けて、この異を唱える声がますます高まっていくのは必至といえる。
  これに対し、政府は官房長官の私的懇談会として、7月中に「社会保障のあり方に関する懇談会」を立ち上げ、年金、介護、医療を含めた社会保険制度の見直しを行うとした。具体的にどのような議論が展開されるのかは不明だが、経済財政諮問会議に押される一方の厚生労働省にとっては、社会保障の財源確保(消費税アップなど)に関して突破口を開くチャンスでもある。野党・民主党の支持母体でもある連合の会長が、この懇談会に参加するという点もポイントの一つだ。
  有権者の年金改革批判票や社会保障制度に対する関心の高さがプレッシャーとなれば、この懇談会が、小泉政権下で行われてきた今までの研究会などとはまったく質を異にする可能性もあるだろう。現在進められている介護保険制度の見直しや、再来年に予定されている医療制度改革にも、選挙前とは違った風が吹いてくるかもしれない。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.07.20
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