>  今週のトピックス >  No.867
介護保険と障害者支援費の統合問題
〜統合反対が勢いを増した本当の理由〜
●  揺れる見直し議論
  平成17年に改正が予定されている介護保険制度であるが、ここへ来て見直しの議論が揺れ始めている。賛否のポイントは「介護保険と障害者支援費」の統合である。
  昨年スタートした障害者支援費制度は、その利用が国の予測をはるかに上回り、財源が100億円以上不足する事態となった。加えて、小泉政権が強力に推し進めている三位一体改革によって政令市市長会が3兆円規模の補助金削減を了承するなど、地方財政の行方は混沌としている。このままでは支援費制度が破たんするという見方が強くなる中、一時期は「介護保険との統合は避けられない」という議論が大勢を占めつつあった。
  ところが、ここ数カ月の間で、統合に反対する声が急速に大きくなっている。まず、統合反対の声を上げたのが身体障害者の当事者団体で、6月初旬には約700人の当事者が霞ヶ関で反対集会を開いた。これに追随するように全国市長会・町村会が、6月18日付で「統合の議論は慎重に」という趣旨の緊急申入れを行っている。
  また、統合反対派の意外な"応援団"となったのが日本経団連である。統合議論においては「20歳以上から保険料を徴収する」ことが目されており、従業員と保険料を折半する立場の企業として、負担増を容認することはできないという立場である(逆に労働団体はおおむね統合賛成に回っている)。
  こうした流れを受けて、厚生労働省の社会保障審議会は厳しい舵取りを強いられることになった。障害者部会の中間取りまとめも、介護保険部会に提出された最終見直しについても、「統合問題」は両論併記のまま先送りされている。この問題の決着は、改革案をまとめるとしている秋口まで長引きそうだ。
  ちなみに反対論で掲げられているのは、「高齢者と若年障害者ではケアに対するニーズが異なる」「支援費で培われたサービス供給量が減らされる恐れが大で、障害者の社会参加を妨げかねない」といった趣旨が主である。だが、これだけでは、「支援費の財源不足が深刻な中で、介護保険と統合しなければ将来的なサービス量が確保できないのではないか」という論がどうしても勝ってしまう。
●  現場の実績と制度の行方
  障害者団体が統合反対を唱えている背景は根深い。そもそも支援費におけるヘルパー派遣について、派遣時間の上限は自治体によって開きがある。言うまでもなく、全身性障害者などが在宅で生活していくためには24時間のヘルパー派遣が必要であり、これを実現するには自治体の定める上限をクリアしなければならない。そこで、地域に24時間のヘルパー派遣が必要な障害者がいた場合、当事者側はそのたびに自治体の担当者と交渉して、24時間派遣を認めさせてきた。本当に現場レベルの地道なやり取りが、現在の支援費を作り上げてきたと言ってよい。
  これがもし介護保険と統合になるとすれば、社会保険制度という全国一律の仕組みが財政支出を負うことになる。当然、従来のような「個別かつ地道に財政支出を認めさせる」という手法は使えなくなる公算が大きい。仮に「従来の支援費部分を介護保険に上乗せする」という2階建て案が採用されるとしても、いずれは全国一律で枠がはめられる可能性は大きく、障害者団体は「交渉以前に門前払いされる」という部分を危惧しているのだ。
  それぞれの地域で、当事者と自治体が何を築いてきたのか。そこで、どのようなやり取りが行われてきたのか。その部分にもっとスポットを当てていかないと、統合問題の論点はずれてしまいかねない。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.08.02
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