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「介護保険制度の見直しに関する意見」まとまる
〜新・介護予防給付につきまとう不安〜
●  「見直しに関する意見」案の内容
  平成17年に改正予定の介護保険制度に関して、その「見直しに関する意見」が、厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会によって取りまとめられた。79ページにも及ぶこの意見案は、今後マスコミなどでもことあるごとに取り上げられるようになるだろう。
  具体的な見直しポイントをざっと挙げてみると、(1)軽度の要介護者に対して「介護予防に特化した新サービス(新・介護予防給付)」が提供されること(2)施設サービスの利用者から新たに居住費用を徴収すること、(3)地域の実情に応じた独自のサービス体系(地域密着型サービス)を設けること、などが注目される。
  「障害者支援費との統合」をはじめとする"大きな積荷"が先送りされているとはいえ、大きな前進であることには違いない。だが、一読して感じるのは、現場のリアルな視点が大きく欠落しているという印象である。
●  市区町村の果たすべき役割と人材の確保
  意見案が特に力を入れる「介護予防システム」を例に挙げてみよう。書中では、このシステムを提供する入口部分(対象者に「介護サービス」を提供するか、「介護予防サービス」を提供するかを審査すること)について、意見案では、要介護認定と一体で行うべきであると述べられている。保険者が主催する介護認定審査会が判断する可能性が高いというわけだ。と同時に、「その人にどんな介護予防サービスを提供すべきか」というマネジメント部分についても、やはり保険者である市区町村が「責任主体となるべき」と記されている。
  簡単に言えば、介護予防に関しては、審査からマネジメントまで包括的に市区町村が面倒をみるということになる。直感として、「介護予防に関する相当な範囲について市町村が主導権を握り、利用者側の選択範囲が極めて狭くなる」という危惧を覚える。利用者サイドに「介護予防に対する理解」がどこまで浸透するかにもよるが、ただでさえ「あなたは介護サービスでなく、介護予防サービスを受けなさい」と言われた時の抵抗感は少なくない。そのうえに「利用者側の選択肢が狭まる」ことになれば、「何のための介護保険なのか」という声さえあがりかねないだろう。
  そのような状況下で利用者側の信頼を確保するには、実際に「予防マネジメント」に携わる人材の質が大きなカギとなる。意見案では、介護予防マネジメントにかかわる主体として「地域包括支援センター(仮称)」なる機関の創設を掲げてはいるものの、どんな人材がどんな形で担うのかについて、具体案がスッポリと先送りされている(反面、サービス提供側の人材については「将来的に任用資格は介護福祉士を基本とすべき」など、かなり踏み込んだ意見が述べられている)。
  振り返ってみれば、この半年、介護保険部会を傍聴し続けて感じたことは、市区町村側から「介護保険にかかる権限拡大」を訴える声が極めて強かったという点だ。もちろん、地域分権という時代の流れからすればうなずけないことはないが、そうであるならば、市区町村事業に携わる人材の質についてもっと言及されるべきではなかったか。
  市区町村役場に勤務する職員の不祥事は論外としても、介護保険事業に携わる公務員のキャリア不足やその下に設けられた在宅介護支援センター職員の「親方日の丸」的な仕事ぶりについて、民間事業者や民間ケアマネジャーからの不満の声は大変に強い。そのあたりの声にじっくり耳を傾けないと、国民的な理解はなかなか得られないだろう。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.08.16
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