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平成14年度国民医療費の概況
〜いよいよ厳しさを増す医療財政〜
  8月3日、厚生労働省から「平成14年度 国民医療費の概況」が発表された。それによれば、国民医療費の総額は31兆1,240億円で、前年度の31兆3,234億円と比べて0.6%の減少となることが分かった。中でも老人保健給付分は、前年比マイナス0.9%となっているのが目立つ。
  老人保険給付分が減った要因としては、老人保健制度の改正(平成14年10月より施行)によって高齢者の自己負担額が増え、医療サービス利用が抑えられたことがあげられよう。また、診療報酬のマイナス改定なども影響していると思われる。
●  医療費の減少は“傾向”にはならない?
  平成14年度は国民医療費の減少をみたが、一連の施策が医療財政のひっ迫を押し戻したと評価するのは早計かもしれない。実は2年前の平成12年度においても、国民医療費の対前年度比が1.9%も減少している。平成12年4月から介護保険制度が施行され、それまで国民医療費の対象となっていた費用のうち、介護保険の費用に移行したもの(訪問看護サービスや療養型病床群の一部など)があるためだ。医療費の一部が別の制度に吸収されたわけだから、減少するのは当然であろう。
  問題はその翌年の平成13年度である。同年度の国民医療費は、対前年比で3.2%の伸びを記録。老人保健給付分に限れば5%以上増え、介護保険制度導入の効果があっという間にかき消されてしまったことになる。
  この流れを見る限り、今回明らかになった平成14年度の医療費の減少傾向も一時的なものと捉える見方がある。
●  今後の国家施策
  厚生労働省も楽観しているわけではない。折りしも今年は、老人保健法に基づく医療以外の保険事業(老人保健事業)第4次計画の最終年度に当たる。これを受けて、次年度以降の老人保健事業のあり方を総合的に検討する「老人保健事業の見直しに関する検討会」が、7月から開催されている。この中で、基本健康診査や健康相談、健康教育といった、いわば「疾患予防」にかかる事業のあり方が重点的に話し合われることになる。
  第3回の検討会を傍聴したところでは、歯周疾患の予防や運動器疾患の検診という新しい介護予防プログラムなどが提案され、かなり踏み込んだ議論が展開されていた。介護予防に重点を置いた介護保険制度の改正議論とあわせると、高齢者の疾患・介護予防施策は、一種の国家プロジェクトの様相さえ感じさせる。
  ただし、医療費の高騰に対して本気でブレーキをかけるつもりなら、事業プログラムを整えるだけでは追いつかない。同時に必要なのは、予防事業を支えるだけの機関・人材の育成、それと「本当に効果のある予防プログラムなのか」を評価するシステムの構築である。前者については、介護保険部会において「地域包括支援センター(仮称)」の設立が明言され、後者については、介護予防サービス評価研究委員会という独立した検討機関が設立されるに至っている。
  医療財政の破たんが現実にならんとする今、「予防」という国家プロジェクトがどこまで功を奏するのか。大いに注目される。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2004.08.30
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