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高齢者雇用安定法が改正される
〜焦点は継続雇用制度の基準づくりに〜
●  改正は「もう一つの年金改革法」!?
  総務省の発表によれば、平成16年9月15日現在の日本の高齢者人口(65歳以上)は推計で2,484万人、高齢化率も19.5%でともに過去最高を記録した。さらに、「65歳以上の就業者の割合」も19.7%にのぼっているが、これはアメリカ合衆国の13.5%、イギリスの5.8%といった西欧諸国の数字に比べて格段に高い。
  この労働市場の高齢化に引っ張られるように、今年6月「高年齢者雇用安定法」が4年ぶりに改正された。改正の目玉は、65歳までの安定した雇用を確保するため、事業主に対して、1.定年の引き上げ、2.継続雇用制度の導入、3.定年の廃止のいずれかを義務づけるとしたものだ。改正前が「努力義務」であったのに対し、改正後は「従わない事業主に対して厚生労働大臣による指導・勧告が行なわれる」など、強制力が伴うことになる。
  定年や継続雇用制度の適用年齢については、平成18年4月から段階的に引き上げられ、平成25年から65歳となる。段階的な年齢引き上げは厚生年金の定額部分の支給年齢引き上げとリンクしており、働く高年齢者から年金保険料の徴収が期待される点と合わせ、「もう一つの年金改革法」と指摘する声もある。
継続雇用制度・・・定年を迎えた社員の中から希望者を募って、引き続き雇用契約を結ぶ制度。
●  企業側には逃げ道も
  平成18年といえば、改正介護保険法の適用も開始される。現行では、保険料負担の年齢を20歳以上まで引き下げる方向で議論が進んでおり、現役社員との折半が義務づけられている企業にとっては、雇用安定法改正に伴う高年齢者雇用の増加と併せて、極めて規模の大きい負担増が待っていることになる。
  そうした企業側の危機感を和らげるというわけではないのだろうが、今回の改正法においては、一つの逃げ道が設けられている。先に示した「3つの義務」のうち、事業主側が2.の継続雇用制度の導入を選択した場合、「再雇用の対象者を選ぶ場合の基準を労使協定で決めることができる」とされている。問題はこの後だ。もし、労使協定が紛糾して基準が決まらない場合は、大企業で3年間、中小企業で5年間の猶予を設け、その間は就業規則によって基準を設けることができるのだ。
  就業規則というのは、確かに労働者側代表の意見を聞くことは必要だが、同意を要件とはしていない。つまり、企業側が「一定レベルの能力を有しないものは再雇用しない」といった基準を一方的に設定することも可能になるわけだ。当然、労働団体などは、この部分について強く反発している。
  恐らくは、この基準について省令などによって規制が設けられるとは予想されるが、例えば平成13年に施行された雇用対策法で示された「年齢制限を行なう場合の10項目の例外規定」のような表現に落ち着くのではないかとみられる。だが、この「10項目の例外規定は抽象的すぎる」という意見も一方であり、結局は現場レベルで労使の対立を煽ることになる懸念も捨てきれない。
  少子化が進む日本においては、高年齢者の労働力に頼らざるを得ない傾向がますます強まる。厚生労働省としては、高年齢者の再雇用事例を集めて、一刻も早く適正な基準づくりに取り組むことが急務となるだろう。
10項目の例外規定・・・社員募集を行う場合、雇用対策法では「原則として年齢上限を設けてはいけない」ことになっているが、例外的に年齢上限が認められるケースを列記したもの。例えば、「長期的なキャリア形成を図るために新規学卒者等を対象として募集・採用する場合」などが挙げられる。今回の高年齢者雇用安定法の改正では、この10項目を募集要項に明記し、個別具体的に応募者個人に提示することも義務づけられた。
出典:出典:総務省ホームページ
(介護・福祉ジャーナリスト  田中元)
2004.09.27
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