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発達障害者支援法案、この秋成立へ
〜周囲の無理解に苦しんできた人々を救えるか〜
●  発達障害とは?
  発達障害という言葉をご存じだろうか。脳の機能障害によって外部からの情報をうまく処理できないという障害で、自閉症や学習障害、アスペルガー症候群などがこれに該当する。脳機能の障害という点で、心理的要因によって生じる精神障害とはまったく異なる。
  自閉症のうち知的障害をともなうケースを除けば、基本的に知的発達の遅れはない。だが、例えば学習障害のように聞く、話す、読む、書くといった能力の習得と発揮に困難を来すため、他者とのコミュニケーションがうまく図れず、社会的活動に支障を来したりする。こうしたコミュニケーション能力などにも人によって差があり、中には発達障害をもちながら、大学を出たり、普通に社会人として生活している人もいる。
  この一見「障害」と認識されにくい点が、皮肉にも周囲の無理解や、「性格に問題がある」とか「親のしつけが悪いからああなる」といった偏見を生み出してきた。学校では「問題児」として教師にも疎んじられ、発達障害の子どもとコミュニケーションが図れないことに悩む親に対し、世間は「親の資質がない」と後ろ指を指すなどというのも日常茶飯事だ(児童虐待の多くは子どもの発達障害が絡んでいるのではないか、と指摘する声もある)。
●  法整備とその課題
  発達障害に対する社会的偏見をなくし、発達障害を正しく理解しながら社会参加への支援を進めていこうという動きがようやく芽生えつつある。その一つが、この秋の臨時国会に議員立法として法案提出が予定されている「発達障害者支援法(仮称)」だ。法案の概略としては、「乳幼児健診などでの発達障害児の早期発見と早期療育に努めること」や「就労を支援する施策とともに、地域での自立した生活を確立するための施策を講じること」を、国や自治体の責務として定めている。
  すでに厚生労働省は、法案成立を見込んで、約8億5,000万円という支援体制整備費を来年度予算概算要求の中に盛り込んでいる。また、平成17年度からは文部科学省と連携して全都道府県でモデル事業を実施する予定にもなっている。法案成立前から、それも省庁間の連携まで視野に入れて動き出すというのは、行政機関としては極めて異例だ。それだけ、本人やその親をはじめとして多くの人々が苦しんでいる現状を示している。
  もちろん、この法案は第一歩に過ぎず、問題は山積みである。例えば、発達障害の子どもを持つ親にしてみれば、いつでも相談できる機関が身近にあることが第一の望みであるはずだが、ハコはできても、しっかりと相談に乗れる専門家はとても足りないのも事実。これから養成するにしても相応の時間はかかるだろう。せんだって改正児童虐待防止法が施行されたが、児童相談所の相談員の数が足りず、虐待を未然に防げない状況は昔も今も変わらない。これと似た危惧がどうしてもつきまとう。
  まずは一気に啓蒙のすそ野を広げる中で、「発達障害について勉強したい」という専門家の卵を確保することだ。同時に専門家の配置目標を定め、国に対して目標達成へ向けたプレッシャーをかけることも必要だろう。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2004.10.12
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