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2012年の介護保険料と給付費の試算
〜発表の裏にある厚労省のメッセージ〜
  介護保険制度改正に向けた議論が大詰めを迎える中、厚生労働省は10月21日付で「介護保険制度における第1号保険料および給付費の見通し」と題する試算を発表した。
  過去にも同様の試算は出されているが、今回の発表では、予想の範囲を超えた給付費増を考慮した点に加え、現在議論が進められている制度改正のゆくえが加味されている。多少乱暴な言い方をすれば「制度改正を進めればこの程度で済むが、改正に踏み込まないと、介護保険料と給付費はこんなに上がってしまう」という意図が感じられ、有識者の評判はあまりよくない(そのあたりを考慮したのか、試算のサブタイトルには「ごく粗い試算」とただし書きが付いている)。とはいえ、数字的にはかなり衝撃度の高いものであることは間違いない。
●  現行制度のままの試算で2012年には給付費は2倍に
  まず、一年あたりの給付費を見ると、現在は5.5兆円の給付費が、8年後の2012年には10.6兆円と、倍近くまで膨らむとされている。団塊世代がすべて第1号被保険者となるのが2015年であるから、その前にこれだけの数値にたどりついてしまうとなれば、ただごとではない。
  以上は「現行制度のまま」行った場合の試算である。これに対し、制度改正によって給付の適正化が進んだ場合の試算として、別に二つのデータが用意されている。一つは、制度改正の目玉である「介護予防対策が相当進んだ場合」(ケース1)、もう一つは「ある程度進んだ場合」(ケース2)だ。
  ケース1では、2012年の給付年額は8.7兆円、ケース2では9.2兆円と、「現行制度のまま行った場合」に比べ、それぞれ1.8兆円、1.4兆円のマイナスとなる(ちなみに、最も大きな論点である被保険者や受給者の範囲見直しのシミュレーションは入っていない)
●  月額約5,000円に跳ね上がる保険料
  さらに気になるのは保険料である。この給付年額から導き出した試算によれば、第1号保険料(65歳以上の国民から徴収する保険料)の平均は、「現行制度のまま」行った場合で2012年には月額6,000円になるという。現在の平均保険料が月額3,300円であるから、ほぼ倍近くまで跳ね上がる計算だ。
  これに対し、上記のケース1だと月額4,900円、ケース2だと5,200円という試算がなされている。確かに「現行制度のまま」よりは低いが、それでもほぼ月額5,000円という金額は、年金給付が不透明な中での65歳以上の経済力を考えると非常に厳しい。
  実は、この数字から二つのメッセージが垣間見えてくる。一つは「結局は20歳以上まで被保険者の範囲を広げなければやっていけない」という改正論議に一石を投じるメッセージ、もう一つは「保険給付が適正になされているか否かの監視をもっと厳しくすべき」という地方自治体に向けたメッセージだ。
  後者について言えば、この試算発表と同じ日に、やはり厚生労働省から「介護給付適正化推進運動を実施する」という告知がなされている。つまり、不正請求や不適切な請求をする事業者に対して監視の目を強め、介護報酬の支払いが巨額な事業者に対して指導監査を行っていくよう求めているのである。今回の試算は、単なる予測データの公開に留まらず、介護現場にさまざまなプレッシャーがかかり始める引き金なのかもしれない。
端数処理(四捨五入)により、給付費の差し引き額とマイナスの数値は一致しないこともある。
参考:厚生労働省「介護保険制度における第1号保険料及び給付費の見通し」
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2004.11.08
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