>  今週のトピックス >  No.933
介護人材の養成基準が変わる!?
〜動き出した国の政策は機能するか〜
●  介護福祉士へシフトされるホームヘルパー
  介護の現場で最も数多く働いている人材といえば、ホームヘルパーである。この場合の「ホームヘルパー」とは、訪問介護の現場で働くヘルパーのみならず、ホームヘルパー研修を修了した人材を指す。例えば、通所介護や施設介護の現場でも、ヘルパー研修のみを修了したケアワーカーがたくさん働いている。
  この介護現場の隅々にまで行き渡るホームヘルパーが、ごく近い将来いなくなるかも知れない。と言っても、離職するというのではなく、国家資格である介護福祉士へとシフトされるということである。
  発端は、現在進められている介護保険改正の議論である。この議論の舞台となっている介護保険部会において、ホームヘルパーの人材としての質がやり玉に上げられたのだ。同部会が出した報告書では「2級ヘルパー(の研修時間)は130時間であるのに対し、介護福祉士は1650時間と大幅な開きがある」とした上で、「将来的には、任用資格は『介護福祉士』を基本とすべき」と述べられている。
  ちなみに、ホームヘルパーは研修内容によって1〜3級に分けられているが、修了に際して試験はない。必要な受講時間さえクリアしていれば、だれでも修了証が発行される。この修了証は日本全国どこでも通用する上、更新はない。「研修で居眠りしていても、一生ものの資格を取ることができる」などという陰口も聞かれるくらいである。確かに、現場実習がわずか数日という研修内容で本当に即戦力になるのかといえば、不安視する声が出るのは当然だろう。
●  介護サービス従事者のあり方に関する改編
  介護保険部会で早々に出ていた議論を受け、厚生労働省では平成16年7月に「介護サービス従事者の研修体系のあり方に関する研究事業について」という委員会を立ち上げた。委員長は、さわやか福祉財団理事長の堀田力氏、というよりロッキード事件で検事総長を務めた堀田氏と言った方が分かりやすいかも知れない。
  この委員会が10月中旬にまとめた中間まとめ案では、介護現場で働くことを希望する人はまず介護福祉士養成施設に入り、そこで一定期間の研修を積んだ後に介護福祉士の試験を受けることになるという。現在ヘルパー資格で業務に就いている人は、当面400〜500時間程度の基礎研修を受けた後に介護福祉士を目指すことになる。
●  最大の問題は研修期間の給与などの待遇
  改編が始まるのは、改正された介護保険制度がスタートする2006年と推測されるが、実は乗り越えなければならない壁もある。最も大きな問題は、現在業務に就いているヘルパーが基礎研修を受ける場合、その間の給与等の待遇はどうなるかという点だ。
  現行の介護報酬では「働かない職員」を雇う余裕のある事業所は皆無に等しく、国から何らかの補助金を出す以外にない。それだけの財政的余裕が、国にあるのかどうか。もし、研修期間中は無給などという事態になれば、離職率は当然跳ね上がる。ただでさえ人手不足と言われている介護現場は、崩壊の危機に差し掛かるだろう。
  介護保険が始まる際に、国は制度を支える人材として、言葉は悪いが「ホームヘルパーの乱造」を行ってきた。その負の遺産のツケを払わなければならない時期に来ているとすれば、一般の介護サービス利用者にとっても無視できない問題である。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2004.11.22
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