>  今週のトピックス >  No.941
新潟県中越地震、被災者のその後
〜仮設住宅でスタートしたある取り組み〜
●  災害弱者へのケアをどう取り組むか
  40人の犠牲者(12月1日現在)を出した新潟県中越地震。その発生から1カ月余りが経過した11月、被災者のための仮設住宅が完成した。11月24日に長岡市、刈羽小国町250戸の入居スタートを皮切りに、栃尾市や十日町市でも27日に入居が可能となった。最終的には県内50カ所に仮設住宅の建設が計画されており、年内には約3,500戸の入居が可能になるという。
  仮設住宅への入居やライフラインの復旧は、復興に向けてのワンステップではあるものの、山積している課題の解決はむしろこれからが本番になると言っていい。家屋を失った人への補償、職を失った人への就職あっせんなどと同様に深刻なのが、高齢者や障害者といったいわゆる「災害弱者」へのケアをどのように進めるかである。
  未曾有の被害を出した阪神淡路大震災の例を見ても分かる通り、仮設住宅に転居した一人暮らしの高齢者が自殺をしたり、孤独死を発見されたりというケースが続発した。住み慣れた家を離れ、孤独感や将来への不安感を抱える人々を地域社会がどのように支えていくか。これは、単に人々の善意のあり方にとどまらず、システムの問題としてとらえていくことが大切だろう。
●  4割の高齢者が「不眠」などの不安を訴える
  中越地震では、在宅で介護を受けている高齢者約1,000人が被災により家を離れている。そのうち約300人余りが避難所での生活を強いられた。要介護度の差はあるだろうが、例えばプライバシーの確保されない空間の中で、オムツ交換の必要な人、痴呆によって精神状態が不安定な人などに与える影響は決して小さくはない。
  実際、新潟県が行った調査によれば、避難所に派遣された「心のケアチーム」に何かしらの心の相談を持ちかけた人は、65歳以上の人が最も多く39%に上る。その相談内容の約4分の1が「不眠」だったという。こうした心の問題を抱えたまま仮設住宅への転居を行った場合、住み慣れた居住空間とはまったく異なる中で、継続的な心のケア・身体のケアが必要なことは言うまでもない。
●  仮設住宅の中に小規模介護施設を設置
  長岡市で設立した仮設住宅において注目すべき取り組みがある。第一弾の入居がスタートした長岡操車場の敷地を利用した仮設住宅の中に、デイサービスを中心とした小規模介護施設が設けられたのである。ここにはスタッフが24時間365日常駐し、単なるデイサービス拠点ではなく、仮設住宅に入居する要介護者に対して、随時見守りや訪問などを提供していく予定であるという。
  この話を聞いて連想するのは、現在厚生労働省が進めている介護保険制度改正の中で、地域密着型の小規模多機能サービス拠点が正式に位置付けられそうだという論点だろう。施設と違い、在宅にいる要介護者の場合、特に夜間の暮らしは何かと不安要素が多い。そこで、ごく近い距離に24時間365日対応してくれるサービス拠点があることは、身体だけでなく「心のケア」という観点からも意義深いと言えるだろう。
  今回の震災はさまざまな悲劇をもたらし、それはいまだ進行中である。だが、これを一つのきっかけとして、地域の中で「災害弱者」をどのように支えていくかという仕組みが真剣に議論され始めれば、40人という尊い犠牲者に対してせめてもの供養になるはずだ。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2004.12.06
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