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日本・フィリピン間でFTA合意がなされる
〜注目の看護師・介護士受け入れの行方〜
●  国家試験合格で日本での就労が可能に
  日本とフィリピンの経済連携協定締結について、11月29日、両国首脳の間で大筋の合意がなされた。今回の合意の軸となるのは自由貿易協定(FTA)で、中でも国民の関心を呼んだのがフィリピンの看護師・介護士の日本への受け入れについてであった。
  おおまかな仕組みを説明すると、フィリピン国内で看護師・介護士の資格を持つ人の中から両国政府が就労候補者を選抜し、日本国内で日本語研修・看護介護研修を受ける。その後、看護師・介護士の国家試験を受け、合格すれば新たな残留資格で日本の病院や福祉施設に勤務することができるというものだ(この残留資格は3年ごとに更新可能)。介護士を目指す人に限れば、4年生大学の卒業を条件として介護福祉士の養成コースに通いながら資格を取得する方法も選択できる。
●  不透明な候補者選抜基準
  現在、外国人が日本での残留資格を取得する際、就学と就労に関するビザの発行は厳格に分けられているが、今回合意された「フィリピンからの看護師・介護士受け入れ」は、日本の国家資格を取得するための準備の一環として国内就労を認めた(滞在期間の上限は看護師3年、介護士4年)。政府としては、今回のビザの位置付けは「特例ビザ」として一般の入国制度とは切り離したい考えを見せているが、外国人労働者の受け入れに新たな1ページが加わることになったのは間違いない。超高齢社会を迎える日本にとって、看護・介護の分野における外国人のマンパワーは貴重な存在となるだろう。
  だが、これでフィリピン人の看護師・介護士が現場に続々登場するかというと、なかなか一筋縄では行きそうもない。問題は入口となる候補者の選抜であるが、この選び方の基準については詳細が触れられていない。そもそもフィリピン政府と日本政府の間で、どれくらいの人数を受け入れるかという点で今回は折り合いがつかなかった。これが、候補者選抜のあり方を見えにくくした一因だろう。
●  人材活用のあり方に具体的な議論が提示されない
  今回の合意は2006年をめどに実施に移されるというが、この年は折しも介護保険制度改正の年である。介護現場では、在宅、施設にかかわらず「ケアマネジメントの強化」がクローズアップされるのは間違いない。利用者のマネジメントを強化する過程において重視されるのは、異なる職種間で実施されるカンファレンスである。特に在宅で行われるサービス担当者会議は、100%実施を目指すべく国から現場に相当なプレッシャーがかかることになるだろう。
  そうした中で始まるフィリピン人看護師・介護士の受け入れにおいて、専門職種間の高度なコミュニケーションまで想定した日本語研修が行われるのかどうか。気になるのは、今回の合意について、厚生労働省側から具体的な人材活用のあり方についてほとんど議論が提示されていないことである。経済産業省側が「年間100人程度の受け入れ」というかなり低い目標を想定している報道もある。現場への影響は少ないと考えているのだろうか。
  介護業務の核はあくまで「人」である。そのことが十分に分かっていれば、もっと議論に熱が入ってもいいように思うが、妙に冷めた空気が漂っているのが気になる。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2004.12.20
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