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高齢者施設でノロウイルスによる感染症が拡大
〜背景に見える衛生管理の緩み〜
●  7,800人を超える高齢者がノロウイルスに感染!
  新聞やテレビのニュースで「ノロウイルス」という言葉を聞かない日はない。年末から年始にかけて、広島県の特別養護老人ホームにおいてノロウイルスが原因と見られる感染性胃腸炎で死者・重症者が出たのを皮切りに、全国の高齢者施設での集団感染が毎日のように明るみに出ている。1月13日現在までに、全国236カ所の施設で感染したと見られる高齢者は7,800人を超えている。まさに異常事態としか言いようがない。
  ノロウイルスは、2002年8月に国際学会で命名され、その翌年の8月にはわが国の食品衛生法で初めて名前が登場している。つまり一般に認知されたのは、ごく最近のことなのである。
●  施設の現場職員の衛生管理意識に大きな差
  ノロウイルスは、主にカキなど二枚貝の内臓に蓄積されやすく、それを食べた人の小腸粘膜で増殖する。感染すると24〜48時間の潜伏期間を経て発症し、下痢や吐き気、微熱などの症状が見られる。一般に食中毒というと「夏場に発生するもの」と思われがちだが、ノロウイルスによる感染例は主に冬場に集中する。毎年1、2月になると月平均80件ほどの感染例が報告されており(2003〜04年のデータによる)、サルモネラ菌などによって引き起こされる夏場の食中毒例が月平均100件程度であることを考えても、決して少ない数字ではない。
  とはいえ、今年の感染報告数はケタ違いである。ニュースを見聞きした人の多くは、「なぜ今年に限って?」と感じているはずだ。
  原因の一つとして考えられるのは、ノロウイルスに対する認知が広まり、感染したと思われる高齢者が死亡した衝撃を受けて、現場からの報告例が一気に顕在化したという点。ノロウイルスによる感染の場合、大抵1〜2日で治癒するため、今まで高齢者施設などでは内々に処理されていたという疑念がわく。
  もう一つ考えられることがある。2003年12月に秋田県の社会福祉施設において、やはりノロウイルスが原因と見られる集団感染が発生し、これを機に高齢者施設などの感染症対策について調査したことがある。そこで分かったのは、現場職員の衛生管理意識に施設によって大きな差が生じつつあるという点だった。
●  高齢者施設の合理化経営が、衛生管理意識を鈍らせる?
  そもそもノロウイルスは、保菌者の便などを介しての二次感染力が強い。例えば、感染者への排泄介助を行っている職員が、手洗いなどを十分に行わないまま調理や配膳といった作業にかかった場合、そこから二次感染が発生する可能性が高くなる。
  「福祉のプロが手洗いなどを怠るわけがない」と言われそうだが、例えば“手のひら”は洗っても“手首の周囲”まできちんと洗わなければ、そこから菌が感染することは十分に考えられる。
  最近は施設側が人件費を節減するため、食事を施設内で調理せずに外部に委託するケースが増えている。こうした外部業者は大手も少なくないため、衛生管理については万全を期している。しかしながら、皮肉にも「プロに任せているから大丈夫」という意識が施設側の衛生管理を鈍らせているのではと思われるケースが、調査を進める中で分かってきた。
  介護保険財政などが苦しくなる中で、高齢者施設の合理化経営が進む。そのことが、間接的に感染症などの拡大につながっているとしたら、深刻な問題に発展しかねない。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.01.17
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