>  今週のトピックス >  No.973
要介護認定調査の民間委託が原則禁止に!?
〜行政の不信が生み出した新たな火種〜
●  最も関心が高いのは認定調査
  初めて介護保険を利用する人に話を聞くと、特に関心が高いテーマとして挙げられるのが、入口部分にあたる「認定調査」である。具体的には「いったいだれが家に来るのか」「どんなことを聞かれるのか」といった声が多い。
  初めて介護サービスを受けようとしている人の中には、「いまだかつて赤の他人を家に入れたことがない」「見知らぬ人と日ごろ話す機会がない」という人も多い。そういう人にとって、「だれが」「何を」聞きに来るのかということは、日々介護に携わる人々が考える以上に大きな懸念材料だと言っていい。
●  次の介護保険制度改正で、「市町村」の認定調査を強化
  「だれが認定調査をするのか」という部分について、改正を迎える介護保険制度に大きなメスが入ろうとしている。現行制度における要介護認定調査は、市町村から直接、調査員を派遣するという原則がありつつも、新規申請件数のほぼ5割は、民間の介護支援専門員(ケアマネジャー)に委託しているというのが現状である。
  これに対して、間もなく国会審議が始まろうとしている改正法においては、「市町村が行う」という原則を強化し、委託する場合にも、基本的には市町村を責任主体とする「地域包括支援センター(仮称)」に限定するという方針を打ち出している。すでに一部マスコミなどでは、「民間ケアマネジャーによる認定調査は原則禁止」と報じているところもあり、関係者の間に大きな衝撃をもたらしている。
●  要介護度認定者の急増と、介護保険財政の圧迫を懸念
  なぜ、「市町村のかかわり強化」を打ち出す必要があるのだろうか。その背景には、行政側の要介護認定の公平・公正に対する根強い不信がある。例えば、民間のケアマネジャーが認定調査に行った場合、一人暮らしの高齢者などは、調査項目に答える以外に、さまざまな相談や日常の悩み事などをとうとうと語るケースがあるという。調査員は、調査の質問以外のアドバイスはできないこととされているが、対象者側が勝手に話すのであれば聞かざるを得ない。しかしこの「聞く」という行為が、一人暮らしの高齢者の心理に安心をもたらすというのはよくあることだ。
  その結果、調査対象者は、訪れた調査員に好感を持ち、「あの人がいる事業所にケアプランをお願いしたい」となるケースもある。もちろん、訪問調査の際に営業などはできないが、ローカルな地域であれば「あの人はどこのケアマネジャーなのか」はすぐに判明する。
  行政側としては、調査員の中に「自分の所にケアプラン作成依頼が来る可能性が高いのなら、要介護と認定されるようにしてあげよう」という心理が生まれる可能性を懸念しているのだ。つまり調査項目を辛めにチェックして、実態よりも重い要介護度を導き出しているのではないかという疑念が、要介護認定者の急増と、ひいては介護保険財政の圧迫につながっているというのである。
●  民間委託禁止の現実性について疑問
  専門家の中には、「現在、民間に5割も委託しているのに、それを原則、市町村でやれというのはまず不可能」と、民間委託禁止の現実性について疑問を投げ掛ける。だが、介護予防の強化をはじめとして、介護保険制度の理念が「要介護者を出さないこと(介護保険財政を破たんさせないこと)」に特化されようとしている流れは無視できない。
  利用者側に関心の高い要介護認定の現場で混乱が生じるであれば、国民的理解を得る上で、この部分が意外なアキレス腱になってくる可能性がある。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.01.31
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