>  今週のトピックス >  No.978
不動産の譲渡所得がある場合の確定申告での留意点
●  不動産の譲渡所得に係る損益通算・繰越控除の廃止
  平成16年分所得税の確定申告が今月16日から始まるが、これまでの税制改正の影響で留意すべき事項も少なくない。その一つに、昨年1月にさかのぼって適用された土地建物等不動産の譲渡所得における損益通算や繰越控除の廃止がある。
  改正の内容をおさらいしてみると、不動産の譲渡損失は、原則、ほかの不動産の譲渡所得の黒字から控除し、控除しきれない金額はなかったものと見なされ、ほかの所得との損益通算はできなくなった。控除しきれない金額はなかったものと見なすわけだから、譲渡損失の翌年以降への繰越控除も廃止となる。
●  「居住用財産の譲渡損失の繰越控除」制度の創設
  一方で、従来の「特定居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除」制度について、適用要件が緩和された上、「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」制度に改組され、同制度に係る譲渡損失については、一定の要件の下、損益通算や繰越控除が認められることになった。譲渡資産に係る住宅ローンがない場合を適用対象とした上で、適用期限が3年延長されている。
  さらに、「特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除」制度が創設され、居住用財産の譲渡損失のうち、譲渡資産に係る住宅ローンの残高が譲渡価額を超える場合のその差額を限度として、譲渡損失の損益通算および繰越控除が認められることになった。
●  前年から繰り越した不動産の譲渡損失の取り扱い
  ところで、前年以前に土地などを売却して通算し切れなかった譲渡損失は、改正前のものだから当然3年間は繰り越せる。ただし不動産の譲渡益とは通算できなくなるので注意が必要だ。この点について誤解している納税者が多い。改正によって、ほかの所得との損益通算はできなくなったものの、不動産の譲渡所得間の損益通算は認められるため、当然、繰越損失も通算できるものと思い込んでいるのだ。
  ところが、前年までの繰越損失は、不動産の譲渡所得以外の所得との通算は認められるが、改正後の損益通算の規制の対象外となるため、平成16年1月以降に生じた不動産の譲渡所得との損益通算は認められなくなったのだ。
  例えば、平成15年に土地を譲渡して通算し切れなかった売却損2,000万円を繰り越して、平成16年に給与所得が1,500万円、不動産の譲渡所得が2,500万円生じた場合、この繰越損失の2,000万円は、給与所得1,500万円との損益通算はできるが、不動産の譲渡所得2,500万円は損益通算の対象とはならないため認められないことになる。不動産の譲渡所得2,500万円については、500万円(所得税15%・住民税5%の計20%の譲渡税率)が課税されることになる。
    ただし前年から繰り越された「居住用財産の譲渡損失」や「特定居住用財産の譲渡損失」に係る通算後譲渡損失額は、不動産の譲渡所得の黒字から控除することができる。これらの繰越損失額については、従来通り、ほかの所得の黒字から控除することができるわけだ。
  さらに、その年に生じた純損失額を前年分の所得税に繰戻し還付請求する場合において、前年分へ繰り戻すべき所得金額の範囲から、不動産の譲渡所得が除外されている。つまり、平成16年分の所得税において生じた純損失額についても、2003年分の不動産の譲渡所得に係る所得税に対して、繰戻し還付請求ができないことに留意する必要がある。
参考:国税庁「確定申告書の記入等に当たり留意すべき事項について」
(浅野 宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2005.02.07
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