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障害者自立支援給付法が国会に
〜応益負担の原則が何をもたらすか〜
●  日本の障害者福祉の基盤にかかわる大きな問題
  現在開かれている通常国会において、福祉関連の重要法案が二つ提出される。一つは介護保険法の改正案、もうひとつは障害者自立支援給付法(仮称)である。前者については、法案にさまざまな重要課題があることを、これまでも指摘してきたが、後者の法案についても、日本の障害者福祉の基盤にかかわる大きな問題が含まれている。
  障害者自立支援給付法は、身体・知的・精神という三つの障害分野を一体的にカバーすることを理念としており、この点については、当事者団体からも評価の声が上がっている。問題なのは、サービス利用の際の当事者負担について、「応益負担」を原則とするというかじ取りがなされていることだ。
●  世帯全体で負担能力があれば応益負担を適用?
  日本の障害者福祉施策は、当事者の経済能力をベースとして自己負担額を決めるという「応能負担」を原則としてきた。2003年4月にスタートした障害者支援費制度についても、この原則は貫かれてきたといえる。ところが、今回の法案では、「サービスを受けた分だけ自己負担をしなさい」という方針が明確に示されている。この原則は、現在の介護保険の仕組みに準じるものであり、2009年度にも実現されると見られる「障害者福祉と介護保険の統合」をにらんだ布石と考えるのが自然だろう。
  この場合、問題なのは「障害当事者の経済的負担が重くなる」という点だけではない。どうしても支払い能力がないという人については減免措置が取られるわけだが、ここに介護保険の仕組みを当てはめると、「減免措置の対象となる基準を世帯収入で計る」ということになる。今回の法案では、その点も明確にうたわれている。
  これは、「本人に負担能力がなくても、家族を含めた世帯全体で負担能力があれば、応益負担を適用する」ということにほかならない。つまり、障害当事者の、家族に対する依存度を深める危険があるということになり、「障害者が自立した生活を営む」という理念を覆しかねない危険をはらんでいる。
●  疾患・障害の特質を見極めて、現場ニーズに則した施策が必要
  この法案と関連して浮上している問題が、精神保健福祉法32条の改定である。別名「通院医療費公費負担制度」といわれるこの条項は、うつ病や統合失調症などの精神疾患で通院している患者に対し、「医療費の95%を国が負担し、患者本人の負担は5%(自治体によっては0%というケースもある)」というものである。療養期間が長期に渡る傾向が強い精神疾患について、通常医療費に適用される3割負担を強いることは難しいという理念が背景にある。
  この32条について、障害者自立支援給付法との整合性を図るために、「課税世帯を対象から外す」などの措置が取られようとしている。つまり「家族に負担能力があれば、相応の医療費負担を求める」という仕組みに変えるというわけだ。これは当事者にしてみれば、「自分が病気になることで家族に負担を強いる」という心理に結びつきやすく、結果として「病気であることを隠す」という事態を生みやすい。精神疾患の場合、適切な治療を受けずに潜在化させてしまうことが、どれほど大きな問題を引き起こすかは言うまでもない。
  国が財政事情を考慮するのは仕方がないとしても、せめて疾患・障害の特質をきちんと見極めつつ、現場ニーズに則した施策を展開することは行政の責務ではないだろうか。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.02.14
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