>  今週のトピックス >  No.989
有限責任事業組合という新たな仕組み
〜介護などの市民事業に与える影響は?〜
●  有限責任事業組合(日本版LLP)とは?
  郵政民営化や社会保障制度改革などに焦点が当てられる今国会であるが、そのほかにも日本社会の仕組みを大きく変える可能性のある法案がいくつも上程されている。その中の一つ、「有限責任事業組合(日本版LLP)契約に関する法律案」に注目してみたい。
  有限責任事業組合とは何か。簡単に言えば、株式会社や有限会社といった会社組織の特徴と、民法上の組合組織の特徴を兼ね備えた事業体である。すでに欧米では制度化され、経済の活性化に大きく寄与しているという。
●  出資金がない個人や小規模会社でも、技術などの提供で配分を受けられる
  従来、民法上の事業組合といえば、法人税がかからない分、事業で得られた利益をそのまま出資者で配分し、その所得に課税されるのみであった(構成員課税)。ただし多額の損失が生じた場合、出資者の債権者に対する責任は「無限」となる。本格的な事業を遂行する上では、リスクが大きすぎるのである。
  これに対し、新たに創設される有限責任事業組合は、その名の通り、出資者の債権者に対する責任は株式会社や有限会社と同じく「有限」となる。同時に課税については、従来の民法組合と同様に構成員課税となる。利益を配分する際の決まりも、会社組織のように出資比率で決めるのではなく、出資者同士で自由に取り決めをすることができる。
  つまり、出資する資金がない個人や小規模会社であっても、優れた技術やノウハウを提供することで、それに見合った配分を受けることが可能なのである。経済団体としては、優れた技術を持つベンチャー企業や大学の研究者などが、大企業と組んで創造的なビジネスに参加するという効果をもって、日本経済の国際競争力を上げることを狙っている。
●  小規模サービス機関などが介護保険事業の対象になる可能性
  効果はそれだけにとどまるものではない。例えば、医療や介護といった分野において、将来的にこの有限責任事業組合という仕組みが大きな力を発揮する可能性がある。
  次回の介護保険改正では、小規模多機能型サービス機関や10人以下の小規模有料老人ホームなども介護保険事業の対象になる公算が高い。地域密着で利用者から高い信頼を得てきた小規模サービス機関が、介護保険事業者として名乗りを上げやすくなるだろう。
  だがサービスの質が高くても、いかんせん小規模ゆえに事業を安定的に継続させるノウハウや資金が乏しい。そこで、資金力や人材が豊富な企業と連携を取りつつ、一定の利益配分を得るという仕組みが望まれる。有限責任事業組合はその受け皿になり得るわけだ。
  もちろん、この新しい事業体が医療や介護の分野に参入することが可能かどうかは、厚生行政との刷り合わせが必要となる。現状では、例外もあるとはいえ、介護保険サービスを提供するには基本的に法人格取得が要件となっており、すんなりと参入が認められることは難しそうだ。だが例えば、NPO法人にも法人税がかかり、それが市民事業の参入を阻んでいるという指摘があるのも事実である。
  確かに、利用者保護の仕組みを徹底するなどの課題はあるだろう。その上で有限事業組合が介護保険事業の主体として認められるケースが出てくれば、地域の介護サービス資源に新たな活力が加わるのではないだろうか。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.02.28
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