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第8回全国宅老所・グループホーム研究フォーラムを傍聴して
〜ここでも介護保険制度改正へ不安の声〜
●  利用者の状態やニーズによって適用されない介護保険
  2月26日、27日の2日間、愛知県の名古屋国際会議場において「全国宅老所・グループホーム研究フォーラム2005」が開催された。全国の宅老所やグループホームの関係者らが一同に集い、1998年2月から実践交流を行っているもので、今回で8回目を迎えた。
  グループホームは、少人数の利用者が家庭的な雰囲気の中で生活を共にするというスタイルで、現行の介護保険制度の給付対象となっている。一方、宅老所とは、やはり認知症(痴呆)高齢者を主な対象とし、そうした人々が住み慣れた地域の中で暮らし続けることができるよう、古い民家などを活用しながら、通いや泊まり、訪問といったさまざまなサービス資源を提供するというものだ。
  通いについては小規模デイサービスとして、介護保険制度の対象となるケースもある。しかし、その時々の利用者の状態やニーズに応じて、泊まりや訪問など(時にはサービスの場を住まいとして提供することもある)にも対応していくとなると保険はききにくい。つまり、自主事業ということになる。
●  宅老所も介護保険の対象となるか
  心身ともに不安定になりがちな要介護者が、地域の中で暮らしていくためには、臨機応変に対応できる資源がそろわなくてはならない。大規模施設に入所していれば、24時間365日のさまざまな変化にもある程度対応できるが、サービスメニューが固定化される介護保険の在宅サービスでは対応しきれないケースも多々発生する。
  その隙間を埋めてきたのが、自主事業である宅老所であるが、何せ自主事業であるから経営はなかなか安定しない。このたび国会に提出された介護保険法改正案で、ようやく「地域密着型サービス・小規模多機能型居宅介護」という枠組みが登場し、宅老所が介護保険でカバーされる基盤が整おうとしている。
●  現場重視とはいい難い法改正に不安
  しかし、今回のフォーラムで関係者から上がっていたのは、「制度化を歓迎する」という声よりも、むしろ「制度化されることで運営基準などにさまざまな規制がかけられ、『基準さえクリアすればいい』という劣悪な事業者が増えて行かないか」という懸念であった。
  折りしも石川県のグループホームで、職員が認知症の入居者にやけどを負わせて死亡させるという事件が発生したばかり。報道で、「1週間に3日の夜勤。夜勤の間は1人で12人の入居者に対応していた」という事実が明らかになっている。痴呆ケアの専門家からは「燃えつき症候群になるもの当たり前」という声も漏れるが、この体制は現行では基準違反ではない。
  質の高いケアを提供できる体制として始まったグループホームでさえ、このような悲劇が起こってしまう。フォーラムの参加者からも、「宅老所でも同じような悲劇が起こるのではないか」という声が出されていたが、不安が高まるのも当然といえよう。
  当日、パネラーとして参加した厚生労働省の役人から聞かれたのは、相変わらず「理念」だけが先行した話ばかりである。
  今回の介護保険改正案全体が「現場の運営に必要な詳細が何も煮詰まっていない」ことを露呈した法律になっており、改正を不安視する声は日ごとに高まっているのが実情だ。
  そんな中、フォーラムで掲げられた発表の一つに、「住民参加のワークショップを開催しながら、自分たちの地域にどんな介護サービス拠点が必要なのかを議論した」という事例があった。利用者やその家族となりえる人々の意見を最優先させて、そこからサービスを作り上げていくという発想である。
  この発想こそ、今回の介護保険改正案に足りなかったものではないのか。行政や医療、研究者といった人々ばかりが目立った介護保険部会、そこでたたき台が作成された介護保険改正案──現場の意向をくんだとはとても言い難い。同席していた厚生労働省の役人は、どんな思いでこの発表を聞いただろうか。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.03.14
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