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税理士が見る生命保険販売のツボ
事業承継税制は本当に使えるか?
  生命保険販売の法人営業では、中小企業における事業承継税制というのは関心が高いテーマではないでしょうか。
  しかし最近の事業承継税制における改正項目の中には、その利用において注意しておかないといけない点が多々あります。今回は、平成19年に税制改正された新設の項目である「取引相場のない株式等に係る相続時精算課税制度の特例」という制度について、もともとの制度である「相続時精算課税制度」と合わせて、その内容解説と利用上の注意点をお伝えします。
相続時精算課税制度
  「相続時精算課税制度」は、経済活性化を図るため高齢者の財産を早期に若者に移転できるようにしようと、平成15年度税制改正において創設された制度です。そしてこの制度を使うと、65歳以上の親から推定相続人である20歳以上の子どもに対する生前贈与について、累計2,500万円まで、贈与税が一旦非課税になります。そして累計2,500万円を超える贈与については、一律20%の贈与税がかかります。
  一旦非課税というのはどういうことかというと、相続が発生したときにその生前贈与がなかったものとして、その贈与財産が相続財産に加算されるということです。また、支払っていた贈与税があれば、それも同様に相続時に精算される仕組みとなっています。つまり、贈与されたときには贈与財産2,500万円まで非課税ですが、いざ相続が起こったときには、その贈与がなかったものとして相続税の課税対象になるということです。
  早期に財産移転できることや、今後値上がりしそうなものを生前贈与の対象とすると実質的な節税になることなどのメリットがあるこの「相続時精算課税制度」なのですが、以下2点については注意が必要です。
  1点目は、いったんこの相続時精算課税制度を選択すると、その後には暦年課税制度(年間110万円まで非課税)には戻れないという点です。この新制度を適用するかどうかの最初の年度は、特に慎重な対応が望まれます。
  そして2つ目の注意点は、相続時精算課税制度で贈与された財産については、相続税の計算における「小規模宅地等の特例」の適用は受けられなくなるという点です。ということは、贈与財産の選定を適切にする必要がありますし、また事前の相続税シミュレーションなども必要になることがあるでしょう。こういった注意点がありますので、相続時精算課税制度の活用時には税の専門家への事前相談をお勧めします。
取引相場のない株式等に係る相続時精算課税制度の特例
  平成19年に創設された「取引相場のない株式等に係る相続時精算課税制度の特例」とは、中小企業における事業承継支援の一環として導入されたものです。具体的には、図1にある要件を満たした場合に、先ほどの相続時精算課税制度における「65歳以上の親」という年齢制限が「60歳以上」に引き下げられ、非課税枠も500万円積み増しされ「2,500万円」から「3,000万円」になります(ただし500万円以上の特定自社株贈与に限ります)。中小企業における事業承継においては、従来の相続時精算課税制度の要件などを緩めてより使いやすいようにする、という改正内容となっています。

図1(適用要件)
1.贈与対象となる自社株の発行済株式総額が20億円未満であること
2.贈与する親が、特例選択時点でその会社の代表者であり、発行済株式総数(及び議決権数)の50%超を保有していること
3.贈与を受ける子どもが、贈与翌年3月15日から4年を経過する日までに、上記2の要件を満たしていること
4.平成19年1月1日から平成20年12月31日までに行われた贈与であること
5.その他一定の要件

  ただし、この取引相場のない株式等に係る相続時精算課税制度の特例についても注意点があります。それは、「小規模宅地等の特例」や「特定事業用資産の特例」とは重複適用できないことになっている点です。先述の相続時精算課税制度においては、贈与された財産について「小規模宅地等の特例」の適用が受けられなくなる、ということでしたが、この相続時精算課税制度の特例の場合は、全面的に「小規模宅地等の特例」が受けられなくなります。これは、この相続時精算課税制度の特例を活用したということは、その会社については事業承継を完了させているはずだからこれ以上税務上の恩典を与える必要はない、ということが理由のようです。ですから要件に該当するからといってあわててこの相続時精算課税制度の特例を活用してしまうと、あとあとの相続税申告時に「小規模宅地等の特例」などが使えず多額の納税という可能性もありますのでご注意くださいね。

  これらの事業承継税制における注意点というのは、案外、巷ではいわれていませんので、ぜひクライアント先の中小企業経営者やその後継者などに伝えてあげてください。喜ばれることと思います。

  今日の話が少しでも皆さんのお役に立つことが出来れば、幸いです。
2007.10.9
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税理士 今村 仁 プロフィール
[経歴・バックグラウンド]
京都府京都市出身
立命館大学経営学部企業会計コース卒
会計事務所を2社経験後、ソニー株式会社に勤務。
その後2003年今村仁税理士事務所を開業、
2007年マネーコンシェルジュ税理士法人に改組、代表社員に就任。
[保有資格]
  税理士・宅地建物取引主任者・CFP(R)・1級FP技能士など
税理士 今村 仁