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税理士が見る生命保険販売のツボ
第40回中小企業の悩みを解消するか?〜自社株に係る80%納税猶予〜
事業承継の現場の声
  皆さんが中小企業の現場に接していて、「事業承継」における相談というのはよくあることではないでしょうか。特に中小企業における自社株というのは、換金性はほとんど無いのに相続税法上は高額な株価となることがあります。
  そして現状では、がんばって会社の業績を伸ばせば伸ばすほど、株価が高騰して相続税負担が増加するため、業績アップを控えようというなんとも不合理な企業行動を招きかねない状況にまでなっています。
事業承継税制が変わる!(自社株に係る80%納税猶予)
  そこで平成20年度税制改正において、「自社株に係る80%納税猶予」制度が創設されることになりました(厳密には平成21年度税制改正において創設予定)。
  現行では、非上場株式等に対する優遇措置は小規模宅地等の80%評価減と異なり10%評価減とされています。そしてこれを、現行の10%減額から80%納税猶予に大幅拡充するとともに、対象を中小企業全般に拡大するとあります。適用時期としては、平成21年度税制改正にて創設し、経営承継円滑化法の施行の日(平成20年10月予定)以降の相続に遡って適用することとなっています。
  現行制度である「自社株に係る10%減額措置」とは、対象会社の要件を「発行済株式総額20億円未満の会社」としています。また、減額措置の上限として、「相続した株式のうち、発行済株式総数の2/3又は評価額10億円までの部分のいずれか低い額」となっています。しかしこれでは、より優良な中小企業は対象から外れてしまいますよね。
  そこで、今回の税制改正項目である「自社株に係る80%納税猶予」では、まず対象会社の要件を、「中小企業基本法上の中小企業」としています。中小企業基本法上の中小企業とは、例えば製造業であれば資本金3億円以下又は従業員数300人以下、小売業であれば資本金5,000万円以下又は従業員数50人以下となっています。詳しくは、以下図1をご覧ください。また、発行済株式総額の要件は撤廃し、軽減対象となる株式の限度額も撤廃することとなっています。但し、発行済株式総数の2/3以下という限度は設けられています。
  図1(中小企業基本法上の中小企業の定義)
            資本金    従業員数
製造業その他:   3億円以下又は300人以下
卸売業      :   1億円以下又は100人以下
小売業      : 5千万円以下又は50人以下
サービス業   : 5千万円以下又は100人以下
納税を「免除」ではなく「猶予」
  とはいえ、どの会社でもこの新しい事業承継税制である「自社株に係る80%納税猶予」を活用したほうがいいのか?というとそういうわけではありません。この新しい事業承継税制には注意点が2つあります。
  1つは、「納税を免除」されるのではなくて、「納税を猶予」されるという部分です。ある一定の要件を満たせば、最終的に納税が免除されることにはなっているのですが、もしその要件が満たされなければ今までの利子税も含めて猶予されていた相続税を納めないといけないことになっています。この制度を適用するかどうかは慎重な判断が必要となるでしょう。
5年間の事業継続が要件
  もう1つの注意点は、その適用要件です。該当すればおおまかにはその承継する株式の8割の相続税の支払いを猶予されるわけですから、その適用要件は厳しいとお考えください。具体的には、まず被相続人の要件として、「会社の代表者であったこと」および「被相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主であった場合」があります。
  また、後継者である相続人の要件としては、「会社の代表者であること」および「相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主となる場合」があります。
  そして5年間の事業継続要件というのもあります。具体的には、「代表者であること」、「雇用の8割以上を維持」および「相続した対象株式の継続保有」などがあります。
経済産業大臣のチェックも
  つまり、相続税の納税を大幅に8割も猶予してあげる代わりに、雇用を守り企業を守っていってくださいね、ということでしょうか。
  相続の納税を猶予されたのにその株式をM&Aなどで売却して現金化したというのはダメですよ、となっています。またこのことについては、経済産業大臣によるチェックが入ることになっています。
  しかしこういった要件を満たせば、その承継した株式を死亡の時まで保有し続けた場合など一定の場合には、猶予税額の納付が免除されることになっています。

  皆さんのクライアント先である中小企業の経営者などに、ぜひこの「新事業承継税制」の概要を伝えてあげてください。この制度を利用したほうが良いのかどうかは会社ごとに判断しないといけないのですが、そもそもこういった新しい制度を知らない経営者の方が大半でしょうから、選択肢を増やす意味でも早くに伝えてあげるといいですね。
2008.07.07
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税理士 今村 仁 プロフィール
[経歴・バックグラウンド]
京都府京都市出身
立命館大学経営学部企業会計コース卒
会計事務所を2社経験後、ソニー株式会社に勤務。
その後2003年今村仁税理士事務所を開業、
2007年マネーコンシェルジュ税理士法人に改組、代表社員に就任。
[保有資格]
  税理士・宅地建物取引主任者・CFP(R)・1級FP技能士など
税理士 今村 仁