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知ってビックリ!年金のはなし
第73回 年金保険料を払わなくても7万円の年金?
 
総選挙で民主党が政権をとりましたが
  8月に行われた総選挙。自民党が敗れ民主党が政権をとりました。その民主党のマニフェストに、「すべての人が7万円以上の年金を受け取れる最低保障年金の制度を導入する」と書かれています。その内容の妥当性等は今後の国会での議論に任せるとして、すでにおかしな噂が独り歩きしていることに驚いています。
そんな馬鹿な!
  ある人いわく、「民主党が年金制度を変えたら、保険料を納付しているか否かにかかわらず7万円以上の年金が受け取れるだから、もう今の国民年金保険料なんて払う必要がない。納付するのもばかばかしいから未納するに限る」だそうです。民主党のマニフェストでは、確かに「最低保障の年金については消費税を財源とする」と書いてあり、そこだけを取り出してみると、個人的負担が全くなしで7万円の年金を貰えるように読むこともできなくはありません。
  実務家というのは、定められた制度については詳しく研究をするのですが、決定するまでは実際に現場で遭遇しないので勉強が不足になりがちです。しかしこの最低保障年金については、制度移行に40年かけるということも言われており、未納しても問題ないという論は不自然であることは容易に推察できます。
  常識的に考えて、30年間滞納してきた50歳の自営業の人と、こつこつと30年間国民年金保険料を納めてきた50歳の自営業の人が、分け隔てなく7万円の年金を貰うのは、無理があります。通常こういう場合は、未納の過去記録を引きずった形で法律の変更をします。この例では、未納していた人は50歳から後10年分に相当する年金を貰い(受給権を得るのに25年の納付が必要という部分を短縮した場合)、まじめに納めてきた人は40年分の年金が貰えるようにすると考えるのが自然でしょう。
不正確情報の多い公的年金制度
  年金相談をしていると、お客さまの話が間違いのオンパレードであることはよく経験することです。「私は60歳を過ぎて働いているので、年金手続をしなくていいよね」「私は60歳から貰える年金を62歳から貰うことにするわ。そのほうが有利だから」。ヘタをすると正しい話よりも間違いのほうが多いのでは、という感じもします。あまりにも誤解が続くと正直がっかりもしますが、なるべく丁寧に説明しその誤解を解くことも大切な仕事の一つです。
  年金制度については皆さんの関心が高いために、あちこちの井戸端会議で議題になりやすいのですが、制度が複雑なゆえに正確な知識を持っている人が少なく、声の大きい人が不正確な知識をひけらかす状態のままで井戸端会議のリーダーとなったりもします。
いつの時代にも不正確な情報がある
  皆さんにお伝えしたいのは、新政権が目指す年金制度についてではありません。年金は40年以上かけてお金を払っていく、大変息の長い、とても重要な制度です。それ故に、国の制度でありながら不正確な情報や噂が飛び交いやすいという困った特徴をもつものだと認識していただきたいのです。例えば、年金制度ができたころから年金崩壊論は常にその側あり、根拠なくこれを吹聴する人も常にいます。昨日今日に始まったことではありません。
  何十年も前に、単なる噂話として「年金なんて今払っても将来貰えるわけがない」といったことを聞き、「ムダだから」と保険料の支払いをやめた人もいます。その人は不幸にも無年金となってしまったと聞いています。噂を流した人を恨んでも、取り返しがつきません。今回の7万円の話は年金崩壊論とは違いますが、今それを信じて勝手に未納をすると、老後の年金がなくなる、あるいは受取額が減るという厳しい結果を招く可能性があるのです。法律の検討さえ始まっていないのです。「不正確な情報というのは、このようにでき上がるのだなあ」とちょっと思ったのですが、くれぐれも慎重に、「噂話」にはご注意を、ということです。年金は老後の生活の柱、道を間違えると大変です。
2009.10.13
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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