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義父母の介護に長年尽くしてきたのに…
“長男の嫁”の貢献度は評価されないの?  後 編 
佐川京子行政書士事務所 代表/ファイナンシャル・プランナー 佐川 京子
前回は、母親の二次相続が発生して、介護をした兄夫婦と介護をしなかった弟妹が遺産分割でもめるまでを紹介しました。「介護の負担は知らん顔なのに相続財産は3等分というのはおかしい。介護してきた妻の貢献度も考慮すべき」という兄に対し、「長男の嫁が親の面倒を見るのは当たり前。子の相続分は同じだから財産は平等に分けるべき」という弟妹の主張が対立。もめる相続の典型的な事例です。今回の後編では、そうならないためのアドバイスとして「北本家の人たちが喜代さんの生前に行うことができた対策」を解説します。これまでの詳細は「前編」(11月25日更新)をご覧ください。
■  喜代さんができた対策
  陽介さん、幸介さん、美代子さん3兄弟の母であり、長男の嫁である紀子さんの姑である喜代さんがキーパーソンです。喜代さんは、認知症にはなっておらず、亡くなるまで自分の気持ちをきちんと伝えることができる状態でした。
  そして喜代さんは、紀子さんに対して、夫の大介さんと自分の介護を一生懸命にやってくれていたことをとても感謝していました。その感謝を言葉だけでなく、財産を分けるという形で、実現することもできました。紀子さんは、喜代さんと養子縁組をしていないので、喜代さんの法定相続人にはなりません。よって、財産を分けるやり方は、死後であれば遺言による遺贈、生前であれば贈与という方法がありました。
1.遺言作成
  遺言で紀子さんへ財産を分ける方法には2通りあります。1つは紀子さんを指名して分ける方法(遺贈)と、もう1つは陽介さんの相続分に紀子さんへの分も加味して他の相続人(弟妹)よりも多くなるよう指定する方法が考えられます。
@ 紀子さんを指名して分ける方法 A 陽介さんの相続分を弟妹より多くする方法
  法律で定められている相続人以外の人に、自分の財産を分けたいとき、遺言に書くことで実現することができます。喜代さんが、遺言で紀子さんへ財産を分ける内容にしてあることを誰にも言わなければ、紀子さんにとってはサプライズ。感謝の言葉以外に自分が認められた、報われたという気持ちを強く持つことができたでしょう。   民法で定められている相続の割合と違う分け方をしたいときは、遺言を書くことで実現することができます。紀子さん個人に財産を分けるということではなく、紀子さんへの気持ちを含めて、陽介さんに弟妹よりも多くするということもできました。
  遺言を作るときは、どちらを選ぶにしても、付言を書いておくことがなによりも大切になります。
  付言とは、一般的に遺言の終わりのほうに書くもので、感謝の言葉や家族への思いなどを書くことが多いです。付言に書かれた内容は、法律上の拘束力はありません。しかし、書いた人の思いを伝える方法の1つとして有効です。
  喜代さんが、紀子さんへの感謝の言葉と、遺言で財産を分ける理由を、付言として書いておくことで、残された子どもたちが喜代さんの気持ちを受け止めて、尊重してくれる可能性が高くなったはずです。
  さらに、子どもたち1人1人に対しての喜代さんの気持ちを付言に書くことで、もめごとを少なくすることができたでしょう。
  子どもたち1人ひとりへの思いが長い文章になりそうであれば、遺言とは別に各々の子ども宛に手紙を残しておくことで、喜代さんの思いを伝えることもできました。
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