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知ってビックリ!年金のはなし
第2回 月額か累計額か、で年金額への感じ方が変わる
 
月額を累計額に変換してみると
 年金額は、受け取る側からみると、一般に予想以上に少ないということを前回お話しました。
 「月額15万円の年金? そんな安い年金でどうやって生活していくんだよ!」といわれる方は現実にいらっしゃいますし、日常の相談のなかで年金額への不満は割と多く聞きます。
 しかし、月額15万円というのは、年額に直したら180万円(厚生年金部分100万円、国民年金部分80万円くらいと仮定)です。20年受給するとしたら、3600万円になります。
 その後ご主人がお亡くなりになって、遺族厚生年金が受給できるとしたら(平均的には夫が亡くなってから妻が亡くなるまで7年ありますから)年額75万円(100×3/4) とすると、累計で500万円を超える額です。合計で4000万円を超える受取額になるんですね。
 もちろん実際に貰える額ではなく、生きていたら貰える額ですから、いわば期待権に留まるもので早く死んだらもらえないもの。しかし逆に夫も妻も平均年齢を超えて長生きをする確率もあるわけで、その場合はもっと貰える。やはり、「4000万円を貰える権利を持っている」と考えてもおかしくないですね。
目の前に札束を積まれると錯覚する
 人間は、お金の多寡の判断を間違えることがよくあります。
 年金15万円というのは確かに、月額としてみたら大きくない額かもしれない。ですが、4000万円の現金を目の前で積まれて、これで「貴方、老後をなんとか生活してください」といわれると、「まとまった額だな。なんとかなるかな?」なんて思っちゃう。冷静に平均死亡年齢までの残年数で考えて計算すると結局月15万円の年金なのに。しかもそれ以上長生きしたら悲惨なことになります。公的年金は死ぬまで払われますが、預貯金は底をつく。
 ご夫婦の場合は夫の年金が月15万円としてもこれに奥さんの国民年金が加わります(ずっと専業主婦の場合)から、年金が月額で21万円強(国民年金妻40年納付)、そうすると「贅沢をしなければ通常の生活で赤字にならない程度の老後の暮らしが可能」なレベルです。もちろん「旅行に行く費用や、大掛かりな家などの修繕費、もしもの場合の費用(病気・ケガなど)を別途積み立てておく必要はあり、年金だけで全部は賄えませんが。
たった1万円ですか?
 数年だけ会社で働かれていて、60歳時点で手続きをしたら厚生年金が月額5千円、61歳から1万円というような女性は沢山いらっしゃいます。
 「日帰りで温泉に行ったら終りぐらいの少ない金額よね」といわれますが、これだって60歳から87歳(女性の平均死亡年齢)まで年金を貰ったとすると、300万円を超える受取総額になるのです。300万円ってそう少ない金額ではないですよね。でも月1万円だと、「えええっ!」となっちゃう。
強制されなくて4000万円貯められますか?
 サラリーマンの方に老後のため4000万円を貯めて下さい。といってもなかなか貯まらない、不測の出費がしょっちゅうある。しかも最近、会社の退職金は減らされる傾向にありますから退職金充当でドンと準備ってこともできない。
 給与から保険料が天引きされて、60歳時点において「平均的寿命まで生きたら3000−4000万円の価値のある年金受給権」という権利が確立する。これがどれだけ老後の生活設計に大切になるかということは累計受取額を比較するとおわかりになると思います。年金を「年額、月額だけ」で判断し、総受取額で考えない人が意外と多い。それで、年金月額の低さへの文句ばかり言っちゃう。
一般の人へのアドバイスを
 年金を考えるとき、個人年金にしても公的年金にしても、必ず、月額・年額・累計額(有期じゃない年金=公的年金のときは平均死亡年齢まで)をバランスよく比較してみて、老後設計をする必要があります。そうするとすこし見方が変わってきたりします。FP的には普通のことかもしれませんが、一般の方にはまだまだそういう考え方の浸透はされていません。
2006.10.02
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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