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知ってビックリ!年金のはなし
第3回 遺族年金の落とし穴
 
65歳で年金が減る?
 夫が若くして亡くなり、残された子供と必死に生きてきた女性のお話です。
 ご本人は「65歳を過ぎたら年金は増える」という風にお思いになっていた。それで65歳にはまだだいぶ早いけれど、どれくらいの年金額になるか知りたいということでご相談にこられました。

 そこで私が簡単に試算してあげたのです。本当に年金額がいくらになるか。しかし結果は残念ながら「年金額が下がる」というものでした。

 ご存知だと思いますが、「国民年金の遺族年金」は子供がいるのが前提で、子供が高校を卒業したら終りです。厚生年金は子供がいない場合も支給されます。
 この女性のご主人は死亡時に厚生年金に加入されていました。そのため子供が高校卒業後、遺族基礎年金(国民年金)が終わった後もずっと遺族厚生年金を受給されていました。
65歳になると加算がなくなる(減らされる)
 その遺族厚生年金なのですが、妻が40歳または子供が高校を卒業してから後は、本体の遺族厚生年金にプラスして60万円ほどの加算(=中高齢寡婦加算)がつきます。加算込みで、大体一般相場的には年額90〜120万円くらいの年金になるでしょうか。ここでは遺族厚生年金40万円+加算60万円として話を進めましょう(年額100万円、月額8.3万円)。

 この加算の60万円、残念ながら奥さんが65歳になった時点で終りになります。理由は、奥さんご自身の「老齢基礎年金」がスタートするから。65歳を過ぎたら、遺族厚生年金に妻自身の老齢基礎年金が出るのだからもう加算する必要はないでしょう? ということです。
ちゃんと国民年金の保険料を払っていれば普通は増えるのだが
 40年国民年金の保険料を支払っていた人は、国民年金が約80万円支給されます。ですからこれに遺族(厚生)年金40万円を付け加えると、120万円ほどの年金になります(月額10万円)。65歳で加算がなくなっても40年国民年金保険料を納付していると、約20万円年金が増えます。

 ところが30年納付ですと、国民年金は約60万円、受取額がほぼ変わらなくなります。さらに、保険料納付期間がこれを下回ると年金は減ることになります。

 なお、この加算の60万円は、現在は65歳から全額なくなるわけではなく(昭和31年4月以降生まれの方からは全額なくなります)、減額支給されています(=経過的寡婦加算)。事例の方は昭和22年生まれ、減額後の加算が20万円ほど支給される方でした。ですから、国民年金が40万円あれば(約20年保険料納付相当分)受取年金額は65歳前と後で減らない計算となるはずでした。
減った原因は生活が苦しい時の免除申請だった
 ところが冒頭の女性、夫が亡くなった後、生活がとても大変だったそうで、それで国民年金保険料の「免除申請」を長期間されていたのです。免除の期間は全額納付の期間に比べて年金額できわめて不利です。免除30年でやっと全額納付10年間に対応するだけの年金額にしかなりません。それで計算してみると、年金額が20年相当の国民年金額にもなっていなかった。(※法律改正で、国庫負担が2分の1になると、免除期間は納付期間の2分の1として反映するということになります。これもまた触れる機会があると思います。)当然、65歳からの年金額は減ってしまいます。

 夫が亡くなって生活が厳しく、その中で子供を育てるのは大変ですから、保険料免除をしてでも日々の生活をやりくりしたいと思われるのは当然です。しかし、免除の期間が長くなればなるほど、年金額は減り、老後の生活設計に支障をきたすようになります。
遺族年金は制度をきちんと把握しておかないと
 この奥さん、免除制度を利用しているときは楽になったけど「老後にこんな風になるなら、無理してでも保険料を払ったほうがよかったのでは?」と最後におっしゃいました。
 遺族年金は「一生今の額が最低限でも支給される」と誤解して「国民年金の保険料なんか払ってもしょうがない」と未納されている方もいらっしゃると聞きます。遺族年金は受給される側も制度をきちんと理解して把握しておかないと後々に大きな問題を残してしまうのです。
2006.10.23
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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