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知ってビックリ!年金のはなし
第4回 年金に結びつかないのに保険料を払う?
 
老後に遺族厚生年金と老齢厚生年金の両方を丸々もらえません
 さて、第3回の関連になりますが、夫が亡くなられると、多くの奥さんは子供を育てるため会社に勤めたりするようになります。会社に勤めるようになると、給与から年金保険料を天引きされることになります。

 この年金保険料は、最後には老後の年金額に反映するのが原則です。
 ところがここでひとつ問題が発生します。公的年金では老後に「遺族厚生年金」と「老齢厚生年金」の両方はもらえません。つまり65歳になったら「夫の遺族厚生年金+妻自身の老齢基礎年金」か「妻自身老齢厚生年金+妻自身の老齢基礎年金」のいずれかを受給するかの選択に迫られるわけです。(ここは法改正部分のため、回を改めて改正点に触れますが、今は現行の制度で説明します。)
具体的な年金額を考えて見ましょう
 第3回の年金の相場で考えると、遺族厚生年金は40万円くらいでした。これをもう一度使いましょう。
 その年金額を老齢厚生年金に加入することで実現しようとすると結構大変です。
 夫が亡くなられたとき、子供が小さかったりするために、30代くらいで正社員で会社に入るのはなかなか条件的に厳しく、給与20万円(賞与なし)としてパートに近い正職員のような形態で勤めたとします。
 その前提ですと、大体年間で1.3万円老齢厚生年金の額が増える計算になり、40万円の厚生年金をもらうためには約30年近く働く必要が出てきます。
 そんなに長く働けなくて、もし自分の老齢年金が夫の遺族年金を上回らなければ、残念ながら自分が掛け続けた30年間の年金保険料は遺族厚生年金を貰うためには無意味だったということになります。

 もちろん、天引きされる年金保険料を納付することにより、厚生年金だけではなく国民年金の保険料の分も併せて納付したということになりますから、国民年金に関しては全く無駄ではありません。ここは誤解しないでください。
支払った分の年金額が増えないと出てくる不満
 共稼ぎのご夫婦は「老後に夫と妻両方が別個にまるまる年金をもらえる」という期待をもって保険料を払う(この場合でも夫が急に死亡した場合には同じような払い損の可能性はあるのですが、ご夫婦健在中はそのリスクが顕在化しておらず不満にはなりません)のに対して、冒頭の奥さんは「年金額が増えない可能性が現実にある自分の老齢厚生年金のために保険料を払い続ける」という不満を持つことにあります。

 なお、この方は「遺族年金」という形で、ずっと年金を受給されているため、そういう不都合(自分の掛けた保険料が年金に結びつかない)を甘受するのは仕方がないという意見もありますが、そこは非常に微妙なところ。私にはその意見が妥当なものかどうかの判断がつきません。
働く側からの選択はできない
 それでは、この奥さん、最初から国民年金のままでいたらよかったのでは?という疑問も湧いてきます。
 確かに、この場合は無駄になる保険料はありません。しかし、厚生年金は条件を満たしていれば加入義務があり、会社は従業員の意向とは関係なく厚生年金に加入させる手続きをとるのが普通です。働く側からの選択はできません。しかも保険料は天引きですから、すでに給与をもらう段階で引き去られているのです。
ギブアンドテイクがあいまいなのが公的年金
 民間の生命保険が、“保険料の納付と保険金の給付”に厳密な関係を持っているのとは異なり、公的年金は、よく話題に上る第3号被保険者の問題をはじめ“保険料の納付と給付の関係”が厳密ではありません。
 「たくさん払ったからたくさんもらえるものではない」というあいまいさで恩恵を受ける人にとって公的年金はとても優しい制度ですが、上のケースのように、逆に優しくない場合も実際にはあり問題となるのです。
2006.10.23
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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