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知ってビックリ!年金のはなし
第5回 国民年金の繰り上げ支給の損得―1
 
早死にしたら損だから
 本来65歳から支給が開始される国民年金を60歳から早く貰う(繰り上げ支給といいます)ことを選択される方が「年金って、早死にしたら損でしょう」よく言われます。
 確かにおっしゃる通り保証期間のない公的年金では、早死にすると受取額累計で言えば損になります。だから繰り上げ支給をするという選択も一つの考え方かもしれません。
 「でも、ちょっと待ってください。本当にそんなに単純でいいの?」というのが今回のお話です。
繰り上げは老齢年金だけの問題ではありません
 早死にしたら損だからと思う気持は良くわかります。しかし、繰り上げ支給をすると“障害年金”の保障がなくなるのです。万一、「繰り上げ時〜65歳まで」の間に障害になってしまった時、繰り上げていなかったら貰えるはずである障害基礎年金は、老齢年金(老齢基礎年金)を繰り上げている場合には貰う権利がありません。

 40年国民年金の保険料を納めた方が貰う国民年金(老齢基礎年金)は、18年度の価格で792,100円(月額6.6万円)です。これを仮に繰り上げて60歳から貰うと554,500円(月額4.62万円)に減額されます。(以下説明は月額でします)。
 これは40年納めた場合ですから、30年しか納付期間が無い場合は、当然その4分の3で、65歳からだと4.95万円、60歳からだと3.47万円が月の受け取り額となります。
 もし繰り上げされた方が、65歳までの間に障害年金に該当するような病気になった場合はどうでしょう?(老齢・障害年金の受給要件は触れませんが、ここでは要件を満たしているとします)。
 障害2級の年金額は定額で月額6.6万円(30年加入でも40年加入でも同じです)。30年しか納付期間がない人でも同額、6.6万円貰えます。さらに症状が重く障害等級1級に認定されると、25%増しの月額8.25万円が支給額になります。
 4.62万円8.25万円では、倍とまではいきませんが差のある金額です。ましてや3.47万円8.25万円の差はとても大きい。しかも、単なる老齢の場合と違い、障害のある場合には医療や看護等で他にも相当の出費を必要とします。

 人間というのは不思議なもので、繰り上げ支給を考える場合、死ぬことばかりで障害のことは思い浮かばないようです。あるいはこんな制度があることをまったくご存知ないのか・・・。
思い込みが冷静な判断を妨げる
 最近の女性は長生きですから、「60歳から繰り上げて貰う」のと「65歳から通常に貰う」のでは、繰り上げする方が86%以上の確率で損をすることになるというデータがあります。
 それを説明すると「いや、私はそこまで生きない。私はその少ないほうの14%になりますよ」と切り返される。
 うーん、86:14の賭けなら普通は大きいほうに掛けるんですけどねえ・・・。

 確率の話で「率的には低いですけど、障害状態になった場合には繰り上げは不利になりますよ」という話をすると「障害年金に該当する重い病気なんてめったにならないでしょう、そんな事まで考えてもねぇ」と言われる。この場合は確率の高いほうに自分が該当すると言い張る。自分は障害にはならないと。
 あれれ、何か考え方が一定していないのじゃありません???

「ほう、そうするとお客さんは60歳から65歳までの間は健康で大病をせず、夫もその間に死亡せず(これについては次回書きます)、76歳8ヵ月(60歳からの繰り上げ支給と65歳からの通常支給の総受取額の均衡点、女性は8割以上が生存しています)までに死ぬ予定なのですね」・・・とまぁ、突き詰めるとこういうことになる。

 あまりに自信たっぷり「私は早死にするから」と言われて、ポイントの少しずれた有利・不利的の観点で繰り上げ支給を考えているのを聞くと「なんだかお客さん、自分の老後について都合のいいように仮定に仮定を重ねていませんか?」と言いたくなってしまいます。何とか自分の行動を正当化したいのでしょう。しかし、繰り上げは不利になることが多い。まずその認識がスタートラインだと思うのですが・・・。
2006.11.20
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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