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知ってビックリ!年金のはなし
第6回 国民年金の繰り上げ支給の損得―2
 
繰り上げ支給にはサラリーマンの夫が関係することがある
 前回に続き、繰り上げ支給の話です。夫の生死が繰り上げ支給に関係することはご存知でしょうか?
 もし「夫の死亡が妻の国民年金の繰り上げに関係することがある」のをご存知でない方がいるとすれば、もう一度繰り上げ支給の手続きを請求する前にチェックされておかれたほうが良いと思います。

 夫がずっと国民年金だけという場合は関係ありませんが、夫が長期間厚生年金(または共済年金)のある事業所で働いていた場合に、そのことが顕著に現れます。
 例えば、40年会社勤めて無事定年退職を迎えた夫が、妻が繰り上げ支給の手続きをした後に急に亡くなってしまったという場合を考えてみましょう。

 元サラリーマンの夫が死亡すると、妻の遺族厚生年金の支給が開始されます。平均的な収入で夫が現役時代にずっと働いていたとすると、65歳までの妻に支給される額は、加算(=中高齢寡婦加算)を含めて大体月額12万円くらいになるでしょうか。
妻が65歳まで繰り上げた老齢基礎年金より夫の遺族厚生年金を受給すると
 そこで、繰り上げ支給をした妻自身の国民年金との関係です。
 夫が死亡時で、妻が65歳を過ぎていれば、夫の遺族厚生年金と妻自身の老齢基礎年金という組み合わせで年金を受けることができます。しかし、妻が65歳になるまでは両方を貰うことができません。どちらかを選ばなければいけないのです。
 普通は多いほう(=遺族厚生年金)を選びます。そうすると、せっかく減額されるのを承知で繰り上げした老齢基礎年金がどうなるかというと“残念ながら65歳までは支給停止”となるのです。しかも悪い事に途中で停止となったにもかかわらず、65歳から復活して支給される老齢基礎年金は"減額された額"でしか支払われない(しかも一生涯)のです。
 折角繰り上げ支給をしたにもかかわらず、夫が早く死亡したことによって予定が全く狂ってしまうのです。(妻が)繰り上げ支給を選択してから65歳までの間に夫が亡くなると、結果として「繰り上げ支給の選択は極めて不利な選択だった」ということになるのです。

 一般的に夫の健康状態が思わしくない場合は、繰り上げは避けるべきです。特に年齢差が大きい場合、「例えば夫が10歳年上とか」だと、妻が60−65歳の間、夫は70−75歳なのですからリスクも高くなおさらです。
トラブルが怖いから専門家は慎重になっている
 現在の年金相談では、昔と違って「年金を早く貰いませんか」というようなセールストークをする所は減ってきているようです(裏付資料がないので断言はできませんが、そういう話をよく聞きます)。
 確かに、よくわからないままに繰り上げ支給を選択すれば、前回や今回の説明のような不幸な事例に該当した場合、説明不足が原因によるトラブルのリスクは多分にあるでしょう。
 同じ様に社会保険事務所も繰り上げ支給については凄く慎重になっています。やはりトラブルが多いからなのでしょうか?
一生のものだから納得して選択をしましょう
 年金相談では、繰り上げを検討されているお客様には、寡婦年金や任意加入の話(繰り上げると任意加入ができなくなる)など、今回とりあげてはいませんが、個別具体的に説明しなければいけないことがいろいろあります。

 繰り上げ支給の選択はあせってする事ではないと思います。やろうと思えば60歳から65歳までのいつからでもできますし、後にすればするほど減額率も緩くなります。
 ちゃんと自分がリスクを納得して手続きすることがとても大切です。
 リスクを納得していれば、思わしくない状態になったとしても「しょうがない」とあきらめることができます。しかし、よくわからないままに手続きをすると、後で「こんなはずじゃなかった」ということになってしまうものです。

 繰り上げ後の年金額についても、最初は人より先にお金が貰えるので嬉しくなるようですが「65歳になってみたら回りの友人たちのほうが年金額が多い、そしてその差がずっと一生涯続く」ため、「繰り上げしなきゃよかった」と後悔されている方も結構いらっしゃいます。
 繰り上げ支給は手続きしてしまったらもう取り消しができません(取り消せないということすら知らない人も多いです)。その後悔の念は、お金の損得以上に影響を及ぼし、老後の生活をつまらないものにしてしまう一因となることすらあるのです。
2006.11.20
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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