第8回 繰り下げはお金持ち優遇の制度でしょうか?
繰り下げ支給はお金持ちがやるもの?
今回は、前回とは逆に国民年金の「繰り下げ支給」の話です。繰り下げ支給というのはご承知の通り、65歳から貰える年金を「66歳以降最大70歳まで」繰り下げるというものです。
この制度について、時々こういう批判があります。「繰り下げというのは70歳まで受給を我慢できる人、家計に余裕がある人しかできないだろう。そして70歳まで受給を我慢すると最大42%割増される。これは金持ちの優遇措置に他ならないのではないのか?」。
では「本当に繰り下げというのは金持ち優遇措置」なのでしょうか?というのが今回のテーマです。
自営業の方のように年金が少ない場合には、実は極めて有利な制度なのです
国民年金の満額は18年度価格で年額79万2100円(約80万円)、月額に直すと6.6万円です。
時々「こんな少ない金額で生活していけるのか?」という方がいます。確かにその批判は一理あります。生活費の水準からして「ひとり6.6万円、夫婦で13.2万円」での老後の生活はちょっと厳しい(ですから、自営業の方は老後に備えて普段からもっとしっかり老後資金を貯めないといけないといつも言われているのです)。
しかし、もし自営業の方が70歳まで年金を我慢したらどうなるでしょうか?
年金は42%増しで支給されます。ということは、国民年金満額の人は112万円の年金(月額9.3万円)になります。夫婦でしたら224万円。これを月額に直すと、18.6万円です。
これでも、まだ少ないじゃないかというご意見もありますが、13.2万円と18.6万円ではずいぶん印象が違いませんか?
しかもサラリーマンの方でしたら、60歳定年(定年は延長される方向にありますから近いうちに65歳になりますが)で、定年後に働きたいと思っても前にいた会社の嘱託として残る以外、就職口というのはなかなか見つかりません。しかし、自営業の方であれば体が続く限り同じ仕事で働くことが可能です。
定年がないのは、自営業の特権。それならば「年金を当てにせず70歳まで働き、それから年金を貰う」というように考え直せば、年金額はぐんと増えます。そして、それにより長生きした場合でも経済的な安心感が大きくなります。
もちろん60歳代で亡くなってしまったら、その方は一度も年金を貰うことを経験せず死亡してしまうというリスクもありますが・・・
死ぬまで働くのは無理ですが
自営業の方の中に、「俺は死ぬまで働くから、年金なんていらない」と強がる方もいますが、さすがにこれだけ高齢化が進んでいる現代では無理と考えておいたほうが無難です。定年のない自営業は体の続く限り仕事ができると書きましたが、働けなくなってから亡くなるまでに、普通は何年かの期間があるものです。理想は生涯現役ですが、男性ですら平均死亡年齢が80歳を超えた昨今、死ぬまで働き続けるというのはちょっと現実的ではありません。
しかし、生涯現役ではなく、70歳まで現役というのはそんなに無理な相談ではないと思うのですがいかがでしょうか? 70歳までは普通に働き、あとは仕事量を減らしてリタイアする。繰り下げは66歳以降いつでもできますから、70歳まで待てないのであれば68歳くらいから年金を貰うという将来設計でもいいのです(ただし割増率は下がりますが・・・)。
かく言う私も、年金の受給は70歳からと考えています。サラリーマンの時代が極端に少なく、少額の厚生年金しか貰えないので、老後生活に不安があるからです。そこで70歳までは現役で働き、年金を繰り下げることにより受給額を増やすことを考えています。
もちろん、早死にしたらもったいないという危惧もありますが、それより怖いのは、「年金が少ないのに長生きしてしまう」ことなのです。
繰り下げ支給は大きな武器のひとつ
このように考えてくると、60歳になった時点で老後の備えが不十分だったと思われる人、あるいは自営業で年金が最初から小額の人など、元サラリーマン以外の人にとって「繰り下げ支給」の制度は大きな武器になるものです。これを「お金持ちだからできる特権的な制度」と一括りに批判してしまうのはどうでしょうか。
平成19年4月から「厚生年金の繰り下げ」も始まります。今回は深くは触れませんが、若い時に脱サラして厚生年金期間が短い(後は全期間国民年金)という人でも、厚生年金の繰り下げを選択し、国民年金も併せて繰り下げすれば、老後の年金を増やすことができます。
上手に利用することで、繰り下げの利用価値はさらに高まるのです。
2006.12.19
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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