第101回 障害年金の請求(難しさと費用のお話)
全く相場が分からないのが普通
ちょっと前に知り合いと雑談をしていたときのことです。障害年金を専門にしている社労士の年金手続で、極めて高額な料金で請け負っているという人の話を聞きました。何をもって高額であるかというのは非常に判断しづらいのですが、今回はそんな分かりにくい障害年金手続とその報酬について考えてみたいと思います。
障害年金の請求は、「老齢」「障害」「遺族」と3つに大別できる公的年金の中でも、一般的に最も難しい手続であるといわれています。たしかにそれは間違いありません。初めて病院に行った初診日の確定、それから1年6カ月後の障害認定日の身体の状況、病気がひとつであればまだしも、複数を併発した場合はその因果関係を含めてどう診断書を書いてもらうか。真剣に取り組むと本当に大変な場合が多いのです。
ですから、ちょっとだけ時間をかければ一般の人でも十分に請求手続ができる老齢年金と違って、障害年金を本人が直接請求する場合はかなり手間ひまをかけなければならず、それが大変だということで専門家に頼むのであれば、報酬が老齢年金のそれより高額であることも当然です。
普段なら「無料で年金手続きを代行いたしますよ」という年金相談会を行っている金融機関でも、障害年金は難しい上に面倒で職員の対応が大変なので、と二の足を踏んで断るところもたくさんあります(無料ならお願いしてもいいかもしれませんが)。
ネットを見てもいろいろあって悩ましい
障害年金を扱っている社労士は、どのような報酬体系でやっているのか、前述の雑談の後、興味が出てきてインターネットで検索してざっと見てみました。
基本的にいくら貰うか、どのように貰うかを決めるのはビジネスでありそれこそ自由なのですが、「着手金+成功報酬」という方が多いようです。成功報酬は、受給できるようになった年金額の◯%という決め方です。
たしかに分かりやすく明快ですから、お客さまに安心感を与えることができ、お客さまへのアピールとしては妥当な方法なのかもしれません。
しかし今ひとつ釈然としないこともあります。
そういう報酬体系であるということはすなわち、請求手続の難易度が考慮されていないのではないか、という点です。
老後の年金より事例個々により難易度の差が激しすぎるのが障害年金の特徴
障害年金でもっとも簡単なケースは、初診日(病院に行った日)と、障害認定日(1年6カ月経過した日)がきちんとしており、病気(けが)がひとつであるものです。
例えば、台風で木の枝が折れてどこからか飛んできて屋根の上に乗ってしまったので、それを取り除こうとして屋根に登って、誤って足を滑らせて落下し大けがをしてしまった。
この場合、初診日は屋根から落ちて救急車で運ばれた日になりますし、それから1年6カ月後の障害認定日も確実に把握できます。通院歴や転院の状況も把握できます。また障害の原因となった病気(けが)は屋根から落ちたということですから、他に併合して病気が絡むこともなく、障害年金が貰えるか貰えないかは、その屋根から落ちた人が障害認定日にどの程度の障害状態であるか(認定基準に達しているか否か)のみによるわけで、言い換えればこのポイントがクリアできれば障害年金に結び付きます。
反対に難しいのは、例えば糖尿病で20年前からずっと通院していたが、ここのところ急激に悪化した、などというケース。この場合、いったい「いつ糖尿病と診断されたか、初めて病院に行ったのはいつごろか」を本人も記憶していないことも珍しくありません。また、症状も糖尿病は他の病気と合併症となる場合が多く、網膜症、腎症、心筋梗塞、狭心症その他もろもろの病気を併発していることも普通です。
そうすると、合併症の場合いったいどのように診断書を書いてもらうのが良いのか? あるいは合併症に見えたが、もともと糖尿病とは関係なく心臓が悪かったので心筋梗塞となったのか? つまり因果関係があるのか、ということさえ判定が難しい。あれこれと悩む要素が出てきて、いったいどのような診断書用紙を揃えれば良いのか(診断書は病気の種類により違います)、普通に考えるだけで頭が痛くなります。
簡単と思われる場合は一言、費用を聞いてみたら良い
障害年金の手続の成功報酬を年金額の◯%というやり方にすると、例えば前者の屋根から落ちたほうが障害の程度が重く、後者の糖尿病のほうが障害の程度が軽い場合、たぶん後者のほうがはるかに面倒で手をわずらわせることになるのに報酬は低い、ということになります。
障害年金の手続を仕事としている側からは、楽な案件と大変な案件、たしかに1件1件の難易度は報酬にリンクしないけれど、トータルしてならせば適度な難易度の年金手続に収束し、利益が出るということで経営を成り立たせているのかもしれません。しかし、障害年金を請求する側からすれば請求手続はたぶん一生に一度のことです。しかも一家の大黒柱がそんな状態になったなら、お金に余裕がない可能性もあり、なるべく手続のコストはかけたくない。
「屋根から落ちて」のように、「いつ病気(けが)になって」「どのように治療し」「どのような経過で」ということがすべて明確、ないしはすぐに分かるケースで、請求手続の難易度があまり高くなく、料金体系が成功報酬であれば、とても美味しい仕事になります。そういう場合は、「報酬の値段交渉の余地」があるかもしれません。ちなみに自分が依頼を受けるとしたら難易度はやはり報酬額を決める際のポイントになります。
2010.12.13
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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