第103回 ん? 国民年金保険料の国庫負担率を下げる?
年金は人生の大半の期間、お付き合いするもの
私たちは、公的年金とは20歳から(20歳前から就職して働き始めた方はそのときから)死ぬまで、お金を払い続けてかつ受け取るという、長い長いお付き合いとなります。
「そんなこと、当たり前でしょう」「わかっている」とおっしゃる方もいるでしょうが、国の役人でさえそのことを「肌で感じていないんだろうな」ということが、チラリと見えることが最近ありました。
コロコロと内容を変えて良いのか?
基礎年金の国庫負担割合については、財務省が「平成23年度だけの時限措置として36.5%への引き下げを厚労省に提案」、そんなビックリする報道が先日ありました。
財務省は「お金のこと」だけにしか視線が行かないのですから仕方がないかもしれませんが、こんなことをしていたらとても面倒なことになります。
国民年金(基礎年金)の免除を受けた期間の将来の年金は、国庫負担の割合によって決められている、つまり以前国庫負担率が3分の1だった(直近はわずかにそれより国庫負担率を増額していましたが)ときの保険料の(全額)免除期間については、年金をもらうときに全額納付した人の3分の1の額の年金を受け取ることになっていました。
これが平成21年4月から、国庫負担率が50%になり、これを受けて平成21年4月以降に保険料を(全額)免除されると、免除された期間については、年金をもらうときに全額納付した人の半分の額の年金を受け取ることに改正されたのです。
以前の改正で、ただでさえ難しくなっているのに
国庫負担率の改定を受けた免除期間に対応する年金額の計算は、このように平成21年の改正からかなりややこしくなりました。
例えば平成21年の4月から平成23年3月までの2年間、事情により収入がなく全額免除を受けた人を考えてみましょう。
平成21年4月から1年間は、全額免除期間について年金額が3分の1ですから、計算すると
792,100円×12(カ月)/480(カ月)× 1/3 = 6,601円
平成21年4月から1年間は、全額免除期間について年金が2分の1ですから同様に
7921,00円×12(カ月)/480(カ月)× 1/2 = 9,901円
こういう計算になります(注・端数処理は実際の場合と異なります)。「全額免除=1円も保険料を払わない」という点で見た目としては全く同じ期間なのですが、いつ免除を受けたかということだけで「将来の受け取る年金額が変わってくる」しくみなのです。
免除期間があった場合、その事実と期間の長さだけでなく、「その期間は一体いつなのか?」を間違えずに確認しなければ、正しい年金額が計算できないということになったのです。
また戻るんですか?
そんな年金の国庫負担ですが、国庫負担率を前の状態に戻すなら一体どうなるのか、また元に戻すのか? 最初にその記事を見たとき、「どうするのだろうか」と思いました。
全額免除をした人の場合ですと、平成21年度(3分の1)と平成22年度(50%)、平成23年度(3分の1)と平成24年度(国庫負担率の引き下げは1年限りと言われているので平成24年度にはまた50%に戻る)で、1年おきに免除期間に対応する年金額の計算が違ってくる、そんなことをしてしまったら、ただでさえわかりにくい年金が、さらにぐちゃぐちゃになります。
では、国庫負担を下げるのは1年だけの予定だから平成23年度免除の人の分は国庫負担率を下げたとしても、将来の年金額としては2分の1支給の期間とするというような据え置き措置のような大盤振る舞いをするのか。
いやいや、それでは理屈が通りませんし、年金財政的には入るお金(保険料=この場合は国家負担分)と出るお金(将来の年金)との差が極端で、年金財政に悪影響を与えてしまうことにならないでしょうか? そもそも「財源が確保できない」から国庫負担を減らすのがスタートラインなのに、矛盾しています。
年金への不信感を増幅させないように
「年金不信」ということが叫ばれて久しいですが、その要因の一つに「年金のわかりにくさ」があります。冒頭触れたように年金は、支払い40年、受け取り20年の超長期間、私たちがかかわるもの。だからその間にある程度手を入れることは避けられないでしょうが、途中でコロコロとしくみを変えてしまったら「わかりにくい」「私は本当に正しい金額をもらっているのか?」という不安がでてきます。そんなことはないと、いくら口を酸っぱく説明しても納得しない人がいて、公的年金制度に大きなマイナスを与えます。
税収やら財務状況やら大変なのはわかりますが、だからといって超長期的な視点が必要な年金制度を細かくいじって、将来に禍根を残すようなことは絶対にやめてほしいものです。
財務省の提案は、「そんな案が通るわけもないけれど、とりあえず言ってみた」感のある内容ですが、あまりにも場当たり的な提案のように感じました。
2011.01.17
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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