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知ってビックリ!年金のはなし
第104回 物価下落だが平成23年の年金額は据え置き?
 
難しい厚生年金の計算式
  以前、ある冊子に年金額の計算のことを書いていたら読者の方から、「あなたの解説には年金額の計算方法がきちんと書かれていない。公的年金の本に年金計算方法をきちんと書かないのは不誠実ではないか」というご指摘を受けたことがあります。おっしゃることはよく解ります。私が読者でもそう思うかもしれません。でもそれについては、言い訳をするわけではないのですが事情があるのです。
物価が下がり続け
  思い起こせば平成11年から15年までの5年間、消費者物価は下がり続けました。そこで当時の法律に照らし合わせると、翌年(平成12年−16年度)の年金額は下げ続けなければなりませんでした。物価が下がったならば年金が下がる、法律の規定にある通りのあたり前の処理をすれば何の問題もありませんでした。
  ところが、物価が下がるという、年金制度が始まって以来の状況に国は「とりあえず物価が上がりだしたらそのときに相殺すればいいや」という考えで、ひとまず年金額据え置きという措置をとりました。多分に政治的要因もあったのでしょう。
  しかし期待に反して物価は上昇しませんでした。さらに面倒なことに、最初の3年間は年金額の引き下げを凍結し据え置きとしたのに、後の2年は支給額の凍結に耐え切れなくなったのか、年金額の引き下げを実施したのです。まさか5年も連続して物価が下落し続けるとは思わなかったのでしょうか、途中から方針を変えたのです。
例外的、特例的措置は講じれば講じるほど年金が複雑に
  そんなドタバタがあり年金額については、物価下落5年分を反映した本来受け取るべきであろう年金計算と、物価凍結分をまだまだ全部解消しないで下落の2年分だけを反映した年金計算が並立することになってしまいました。年金額の計算は年金のしくみをいじればいじるほど厄介になります。将来高いペースで物価上昇が進めば、凍結分が相殺されて特例的な措置を講じる必要もなくなりきれいになるのでしょうが、ずっと横ばい状態で物価が推移すれば、この厄介さが今後も延々と続いていきます。さらに年金の今の計算には、平成6年計算式の水準確保する特例措置が絡んでいるのですが、これ以上は深く説明するとスペースがいくらあって足りませんので止めておきます。興味のある方はこのあたりいろいろと調べてみてください。
専門家が年金計算を説明できるのが本来の姿
  一般の方が「年金がわからない」とおっしゃるのは仕方がありません。しかし本来ならば、お金に関する専門家であるFP有資格者レベルの人なら、年金額の計算が普通にできる程度の難易度であるべきでしょう。ごく一部の、年金だけに特化している社労士やFPだけが理解できるようなものであるのはよくありません。
  ところが上述のとおり、年金額計算は複雑になりすぎています。国は「計算は間違いないですから信じてください」というスタンスですし、確かに年金の加入記録は間違っていても、それをベースとした年金額の計算過程については正確ですから、目をつぶって信じてもよいでしょう。しかし年金に関わっている人ならば年金理解のために年金額を計算してみたいもの、そこがわからないと年金は、ずっと頭の中でブラックボックスのままです。
  ところがそういう人に年金額の計算のしくみを説明しようとすると、今まで話してきたようなものすごく長い説明が必要になります。分かりづらい上に分量が多くなります。また中途半端な説明だと誤解されてしまう危険性もあります。
  冒頭の「年金額の計算を説明しない批判」もわかりますし、私たちの努力が足りない部分も多々ありますが、そもそものしくみが複雑なのですから自分たちの努力ではどうにもならない部分もあるのです。文章で詳細に書くには、相応のスペースと、一定以上のレベルで年金を理解できる読者という受け手が必要になります。スペースが短ければ話を省略することもありますし、一般向けの説明であれば計算式は汎用的ケースに限定した書き方になるのが普通です。
慎重な議論と決定を
  菅首相が年金額の凍結をいったん指示したという報道を目にして、一瞬凍りついてしまいました。「また年金額の計算が複雑になるのか、勘弁してくれ」と。
  凍結になれば、現場で日々年金に携わっている人に多大な影響を与えます。物価上昇にならなければその影響が延々と続きます。物価が下がって年金額据え置きとういのは、財政が厳しいのに「実質的に年金額を増額させる」措置ともいえます。財政面、事務面を考えるとあまりに弊害がありすぎます。
  年金のテキストに、老齢厚生年金の計算方法をサラリと書けるようになる時代が来るのを私も心待ちにしています。これ以上注釈や場合分けを増やすことをしたくはありません。
  幸いに、年金額は原則通り引き下げの方向で動いているようですが、そんな現場への影響をも十分に考えてきちんと政治的判断をしていただきたいものだと思います。
2011.01.17
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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