第106回 公的年金と個人年金、企業年金を組み合わせる
老後は3つの年金の連携で
老後生活設計の柱としての年金制度は「公的年金」「企業年金」「私的年金(個人年金)」の3つに大別されます。
企業年金の話は前回、有期年金にかかる老後設計の話をしましたが、さらにその中に個人年金の話を入れてみます。
公的年金の相談中にも、「老後が不安だから」ということで、個人年金加入の話をされる方がときどきいらっしゃいます。
もちろん老後の保障を手厚くしておくということはとても大切なことなのですが、やはり入り方が大切。老後設計をきちんとしておかないと商品選択もきちんとできず、効果的な加入はできません。
公的年金は自由設計が不可
公的年金は国がバックにあり、終身年金であり、物価が上がればそれに対応して支給水準も変わるというインフレ対応もあり、極めて安心できる年金であることはみなさんもご承知のことと思います。
しかし欠点は、自分で自由に設計ができないことです。自営業であれば厚生年金に入りたくても入れませんし、厚生年金に加入しているとしても給料が安い人がもっと年金を多くしたいから保険料をたくさん掛けたいと思っても、給与相応の保険料しか払えません。
ですから公的年金では老後の生活資金が不足と思われる方は、別途な蓄え、例えば個人年金に加入するという選択肢を考えることになるかと思います。
そしてその個人年金の加入ですが、保険会社の担当の方にお聞きすると現在の販売趨勢としては、10年満期の有期年金が多く売られているようです。
「老後が不安だ」の意味
「老後が心配だ」、よく聞かれる言葉ですが、われわれはその老後という意味をよくよく考えてみる必要があります。
10年支給の個人年金であれば、当たり前ですが10年しか年金はもらえません。そうすると前回、企業年金で触れたような収入の激減する(年金の支給が終了する)段差年齢(60歳開始年金なら70歳、65歳開始年金なら75歳)が必ずできてしまいます。
老後が不安という意味が、まだ若くて(75歳までの間で)、体が動く間の「交際費とか旅行費」のような出費に不安を感じているということなら10年満期の個人年金保険に入ることで十分足りるでしょう。何も思い悩む必要はありません。
しかし、それより後の後期高齢者すなわち「自分が介護を受けるような年齢」になるころの収入の心配をしているのであれば、有期の個人年金に加入するのでは肝心なときにお金が不足する可能性があります。
そんなときは個人年金の終身型をお勧めするという考えもあるでしょう。しかし、保険料がかなり高くなるため、10年の有期年金をまずお勧めし、60歳から70歳の間は「個人年金により収入を確保」しておいて、同時に公的年金を我慢(=繰り下げる)するという手を取るのも一つの考え方です。年金額の少ない女性の方などに特にお勧めの方法です。
繰下げをすると、例えば満額月額6.6万円の国民年金のみを受け取る人の場合、65歳開始を70歳まで5年我慢すれば、42%増しですから、月額9.4万円になります。3年間だけの繰下げでも、8.3万円になります。
確かに繰下げ制度は有利だけれど、受給を我慢するわけですから「65歳からの5年間は本来あてにしていた公的年金が入らないので苦しい」。そんな話をたまに聞きますが、その手当のための10年有期の年金です。終身の生活費を個人年金で手当をするのではなく、個人年金を補完的に組み合わせて公的年金を増やす、そんな手段です。
もちろん公的年金は終身年金ですから、繰り下げをして早く亡くなったら損、という意見もありますが、その損となるという観点と長生きしたときのお金の工面をどうするかという観点とをお客さまが天秤にかけ、後者がより気になるなら、やはり繰り下げして増額を考えるべきでしょう。
一定の年齢だけ膨らませても
また、前回触れた有期の企業年金が10年間支給される方は、企業年金が入る間は家計に余裕があるわけですからその間は公的年金を繰り下げして、後から受け取る額を増やすことができます。
まさに公的年金と、企業年金や私的年金をうまくリンクさせて老後に備えるわけです。
しかし、10年有期の企業年金を受給される方に10年の個人年金に加入してもらうと、当たり前ですが、企業年金と個人年金と双方が支給される70歳までの間だけ支給が多く膨らんだ家計状態となります。70歳まで住宅ローンがあるというような、特に手厚くする理由がない限り、これはやはり老後生活設計上うまく年金をリンクさせてないといわざるを得ません。
公的年金の補完として企業年金や私的年金があるわけですから、今後は公的年金の支給額が頭打ちなら、それらの組み合わせを考慮する必要性が増す、そんな時代がやってきます。
2011.02.07
 |
執筆者:桶谷 浩
|
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
|
|
 |
|