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知ってビックリ!年金のはなし
第107回 年金の公平性とは何か…、「運用3号」の問題(1)
 
年金の不公平感が噴出した運用3号
  今回は連日、新聞紙面やテレビをにぎわせる「第3号被保険者の問題」を取り上げます。この問題は年金のしくみの中でもあまり難しくないレベルであり、かつ、また年金加入者の不公平感を増幅しかねないということで多くの報道がされていますので、年金に関心のある人の中には「もうそんなことは知っているよ」とおっしゃる方も多いかと思いますが、あらためて皆さんで復習してみましょう。
第3号被保険者のおさらい
  まず「第3号被保険者」というのは、俗に言う「サラリーマンの妻」(最も多いケースでは)のように、配偶者で収入が一定額以下の人が該当します。
  そして、夫がサラリーマンとして保険料を給与から天引きされれば、その妻は、保険料の本人負担なくして国民年金の保険料を支払ったこととなります。
  ところがこの第3号被保険者には、何もしなくてもなれるわけではありません。第3号の被保険者となるためには、きちんと役所に届出することが必要なのです。届出がされていないと、仮にサラリーマンの妻になる要件を満たしていたとしても、国(日本年金機構)にはわかりませんから、第1号被保険者(自営業と同じ)となり、保険料の納付をしなければならないのです。
  妻が第3号被保険者になっているのであれば、保険料を支払ったことになり将来の年金に結び付きますが、夫がサラリーマンであっても、届出がされていないと専業主婦の妻でも第3号被保険者ではありませんから、保険料が未納になり将来の年金に結び付かず、それどころか年金を受けるのに必要な25年の期間に入らないため、へたをすると無年金の状態になることも考えられます。
  夫の給与から天引きされる厚生年金保険料は、妻がいようがいまいが、また妻がいても専業主婦だろうが共働きの勤め人だろうが全く変わりません。ですから夫が支払う保険料からは、妻が第3号被保険者(=サラリーマンの妻)の適用を受けているかどうかは全くわかりません。
説明に見る「運用3号」となる例
  さて、厚生労働省、日本年金機構から出された通称「運用3号」という説明にはいろいろと細かいケースが書いてありますが、一つだけ典型的な例をあげて見てみましょう。
○ Aさん夫婦、夫30歳・妻28歳で結婚、夫はサラリーマン
     サラリーマンなので年金保険料は夫の厚生年金保険料が給与天引きされ、妻はサラリーマンの妻として保険料の負担をせずに保険料を納付という扱いになります。
○ その後Aさん(夫)が45歳のとき脱サラ、Aさんの妻は当時43歳
     脱サラで自営業を始めた場合、Aさんは当然そこからは国民年金の第1号被保険者となり、国民年金の保険料を支払うことになります。
  さて、ここで問題なのはAさんの奥さんです。
  本来ならばAさんが会社を辞めた時点で自営業の妻となりますから、「サラリーマンの妻」ではなく「第1号被保険者」として、Aさんが国民年金保険料を納付するだけでなく、妻も国民年金の保険料を納付しなければならなくなります。
  ここで、Aさんの奥さんについてきちんと第1号の届出をしていれば何の問題もなかったのですが、Aさんの奥さんはその後も手続きをせず第3号被保険者のままでいたとしましょう。そんなサラリーマンだった人の妻の、届出忘れや手続き事務その他のミスで、夫が退職後もそのまま第3号被保険者であった方が相当数(新聞報道によると100万単位で)いるということなのです。
救済の趣旨は
  Aさんが自営業になった後も、年金の上では奥さんはずっとはサラリーマンの妻となっていた。そして今、夫が55歳、妻が53歳になってその事実が判明したとします。
  本来ならば、夫が脱サラをしたときの妻の年齢43歳から現在(53歳)までの10年間は、第1号被保険者として保険料を納付しなければなりませんから、Aさんの妻の期間について保険料を支払っていなければ、保険料未納の取り扱いになるはずです。サラリーマンの妻として保険料の自己負担をしないで済む、というケースではありませんから当然です。
  ところが国(厚生労働省)は、この期間についても救済を図ることを考えました。すなわち、 時効となっていない直近の2年以外の期間は全てを第3号被保険者として「保険料を納付した期間」として取り扱おう、という運用を考えました。これが今回の「運用3号」という救済策です。ですから2年分の保険料を納付すれば、その2年は1号となり、それ以前の期間は3号の期間となり、あわせて全期間が保険料納付の期間として年金に結び付きます。
  確かに、第3号被保険者の届出等の事務がわかりにくい上に、社会保険庁の時代には行政サービスという意識が薄かったためか、一般国民に対する案内も不十分、事務もいい加減だったということはありました。ですから、夫の退職時に妻も第1号にしなければならない、という手続きを失念した責任を(元)第3号被保険者に全面的に押し付けてしまうのは酷だ、という意見には一部納得できます。
  しかし素直に「はい、そうですか」と言えない、いろいろな問題を含んでいるのです(108回に続きます)。
2011.03.14
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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