第109回 保険料が下がる困惑
平成23年度の国民年金保険料は15,020円に
国民年金の保険料額、平成22年度は15,100円でしたが、物価の下落に引きずられ、平成23年度は15,020円となりました。平成23年度の国民年金、厚生年金の年金額はまだ確定ではありませんが(諸般の報道によると年金支給額が下がることが確定的ですが閣議決定を経て確定します)、保険料については口座振替による前納の手続きの締切が2月28日であることから、すでにこの金額で確定、広報されています。
さて、昭和36年に国民年金の制度が始まってからこれまで、保険料が下がるということはありませんでした。
まさに異例中の異例なのですが、われわれの年金相談にも微妙に影響を及ぼします。
「なるべく早く納付したほうがよい」と言いづらくなった
日常的な相談において、年金相談に来られた60歳前の方で、60歳まで国民年金の保険料を納付しても40年の満額にならない方には「任意加入による保険料納付」をお勧めしています。
特に家庭の主婦のように、年金額自体が多くない人には、老後の生活設計のために「年金を増額していく」のは非常に重要なことと考えているためお勧めの度合いが強くなります。
この任意加入をお勧めする中で、「60歳時点で国民年金の納付月数が35年に満たない」、つまり「65歳までの5年間まるまる納付をすることができるほどの空きのある方」には、納付できる期間が5年間しかありませんから、保険料額にかかわらず、「とにかく早く手続きをして(任意加入は手続き時点から開始するので60歳の誕生月に行ってきっちり5年納付するのが望ましいのです)、全期間納付してください」というアドバイスをします。
一方、「35年を超えているが40年に達していない」というような方へのアドバイスはどうでしょう。例えば、60歳時点で38年の国民年金の納付期間がある方へのお勧めの仕方です。
今までのこの人たちへのアドバイスも、「あと2年は任意加入ができますから、なるべく早く(保険料は毎年上がりますので)任意加入のお手続きをして、保険料を納付されたらどうでしょうか?」というものでした。
しかし、保険料が将来的に減るケースがある場合は、うっかりそんなことは言えません。例えばあと2年加入することができるかという場合でも、来年の保険料動向がわかりません。再来年以降もまったくどうなるかわかりません。
今までは早ければ早いほどよかったものが、保険料が下がるということが現実に起こると一体いつ納めるのが有利なのかがわからなくなるのです。
基本的には、「任意加入をしようかな」と思っても役所に行かず、結局ずるずると納付しなかったということもよくあることです。また、現在は諸条件がなければ原則280円ずつ保険料が上がっていく途中の段階で、保険料が下がってもわずかな額にとどまる可能性が高いです。ですから、思い立ったが吉日で、保険料の100円単位の部分には目をつむっても納付するのが望ましいのですが、どうしても細かいことではあるものの歯切れの悪さは残ります。
「保険料も年金額も上下すること」への一般の方の不安感
「民間の保険はわかりやすい」と言う方がいらっしゃいます。
民間の年金保険には、定額、変額、有期、終身、外貨建て、その他あらゆる種類の年金があるわけですから、商品を選ぶ段階で苦労される方もあり、ひとくくりに「わかりやすい」というのは正しいかどうか疑問が残るところですが、加入する商品を選びさえすればわかりやすいものです。
例えば10年有期の定額の年金保険を選べば、保険料がいくらで、それを何年支払って、いくら支給があるかがはっきりとわかり、加入時に安心感があるとおっしゃるのです。
民間の年金保険のほうが安心?
公的年金は強制保険ですから、毎年保険料が変わっても、年金額が変わっても、国民は文句を言いながらも脱退することはできません。また保険料が変わるのも年金額が変わるのもインフレやデフレに合わせた精緻な年金の仕組みをつくり上げたためであり、決して国民を惑わせることを意図してつくったものではないでしょう。
しかしこのわかりにくさ、不安定さが「国民の年金不信」をつくり出すのに関与している部分があるのは残念ながら事実のようです。
インフレ時には保険料も年金額も上がる、つまりインフレ対応力はかなりの程度ある(同時にデフレにも対応するわけですが)のです。しかし民間の年金保険については物価変動にかかわらず保険料も年金額も不変、つまりインフレ時には年金額の目減りが起こるわけです。物価変動に対応し続ける国の年金制度のほうが優れている側面が多いかと思いますが、逆にそのために年金への不信感が増幅されているならば悲しいことです。
2011.04.11
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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