第11回 第3号被保険者とリタイアメントプラン
第3号被保険者という言葉はよく聞くのですが
ご存知のように第3号被保険者には、保険料の個人負担がありません。配偶者が厚生年金に加入して保険料を払っていると、「国民年金保険料を払ったことにしてくれる」という大変ありがたい制度です。
さて、この第3号被保険者の制度、とても該当する人の数が多くてかつ重要な制度なのですが、意外と定義や使い方があいまいになっている人の多いことに驚かされます。
第3号被保険者のことをちゃんとご存知ですか
簡単な質問をしてみましょう。
@ | 夫が62歳のサラリーマンで妻が58歳の専業主婦。この場合、妻は第3号被保険者でしょうか? |
A | では、夫が58歳で妻が62歳の場合(俗に言う姉様女房ですね)はどうでしょうか? |
B | 夫が68歳のサラリーマン、妻が58歳の専業主婦の場合は? |
Aのケースは、妻は第3号被保険者には該当しません。第3号被保険者には20歳から60歳に達する前までという年齢の範囲があるからです。
@とBのケースについてですが、「第3号被保険者はサラリーマンの妻」というのはわかりやすさを優先して使われている表現であって、正確には「第2号被保険者の配偶者であること」が必要なのです。そして第2号被保険者は厚生年金の加入者ですが、その被保険者の期間は65歳に達するまで(加入期間が不足等の場合は65歳以降も第2号被保険者の資格を喪失しない例外もあり)となっているのです。したがって、@のケースでは妻は第3号被保険者となり、Bのケースでは妻は(原則)第3号被保険者とはなりません。
ちゃんと即答できたでしょうか?「なあんだ、そんな程度のことは一般人ならともかく年金を扱っているFPとしては常識じゃないか」と思うなかれ。いきなり聞かれると意外とすっと出てこないものなのです。
団塊世代の退職で相談事例が激増しています
夫が60歳を超えて継続して雇用される場合の年金相談がとても増えてきました。団塊世代がいよいよ60歳に突入し始めたのです。現在は、厚生年金の支給開始年齢が60歳ですから、60歳になって厚生年金を受給しつつ同時に会社で働くことになります。その場合、給与(標準報酬額)によって年金の調整がかかり、減額されたり、停止されたりしてしまうことがあります。
そこで、年金の調整を避けるため60歳を過ぎた人に、嘱託社員(短時間勤務で厚生年金に加入しない)や自営業のような「厚生年金に入らないですむ」勤務を薦めたアドバイスを目にしたことがあります。確かに、退職して嘱託になった場合などでは、在職老齢年金は全額支払われます。
しかし、これは木を見て森を見ない考え方だと思います。まず、年金が減額または全額支給停止となったとしても、その停止の間も厚生年金保険料を払っているのですから、退職後に貰う年金は確実に増えています。また、年金が減額、停止されるということは、給与がある程度以上の水準であるという前提ですから、(年金をもらえないのは不満かもしれませんが)家計の収入という点では恵まれている方ともいえるのです。そこも説明して本当に全額停止が不利なのかを考えてあげないといけないはずです。
そして上の質問のとおり、奥さん(60歳前)は第3号被保険者であれば保険料負担は生じません。夫が60歳になって厚生年金から(短時間の嘱託職員等で)外れてしまうと、妻自身の国民年金保険料負担が発生することも忘れてはいけません。
妻の国民年金保険料負担というのは、夫にとってはひとつのリタイア時期の判断材料となっているようで、妻が60歳になって国民年金保険料を支払う必要がなくなったらリタイアする(夫婦の年齢差が3年であれば夫が63歳まで働く)という風に考えていらっしゃる方も存在します。
知識をしっかりつけて良いアドバイスを
第3号被保険者などと簡単と流してしまわずに、常に正しく理解しているか自問自答しなければ、退職前後のコンサルティングで不完全なアドバイスをしてしまうこともあるのです。しっかり勉強して相談に備えましょう。
2007.02.20
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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