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知ってビックリ!年金のはなし
第110回 救済の難しさ
 
運用3号は停止に
  第107、108回で取り上げた「運用3号」の問題ですが、前回の掲載からほどなくして、運用停止となり新たな救済策を考える方向性が打ち出されました。さすがに「不公平感」だらけの救済制度でしたので、この決定は無難なものと考えられます。
  年金事務所にお手伝いに行かれている方も、「どのように説明してよいか」「いくら説明をしても不公平感を払拭できず来訪者に納得していただけないのではないか」等々、いろいろと悩まれており、実施が本格的になればかなり現場が混乱していたということで、まずは胸をなでおろしていらっしゃいます。
  さて、こういった年金の「救済措置」は大抵の場合「不公平」を生み出します。不公平のない救済措置はまずない、といってよいでしょう。
どこかをいじると必ずどこかがひずむ年金制度
  運用3号が話題になる前、ここ数年、「年金の記録問題が噴出」し、世間をおおいににぎわせました。
  マスコミではあまり話題になりませんでしたが、ここにも納得できない不公平感が出ていました。今回はこの、年金記録問題での不公平に触れたいと思います。
記録問題での不公平
  年金の記録漏れは、見つかって訂正すれば基本的に有利に働きます。つまり受け取る年金が増額するということです。
  ところが年金が増額しないケースがあります。場合によっては年金が減ることもあるのです。
  ひとつ例を挙げれば、25年保障の障害年金です。
  とある方が入社10年目に大きな事故で障害を負ってしまった。この場合は障害年金を受け取れますが、加入期間が10年なので、25年加入したというみなしの加入年数で計算した年金を受け取ることになります。
  ところが、その人は実はその会社に入社する前に3年ほど別の会社で働いていて、その期間が年金記録から漏れていたとします。
  この場合、3年の期間が見つかったということで、喜んで年金事務所にいっても、その3年間の給与がものすごく安い場合は、年金が減ることがあります。年金額を計算する公的年金は実期間(=この場合は10年と13年)を使って計算する場合は、どんなに給与が安くても長く働けば働くほど必ず年金は増額する仕組みですが、加入期間にかかわらず「期間が25年」と一定とされる場合は、安い給与の期間が含まれてしまうと年金額が減るのです。
以前は厳しかったのに
  年金問題が大きくなるまでは、この「新たに期間が見つかった年金」の処理はものすごく気を遣う大きな問題でした。訂正をすると年金が増えるか減るか、代理する社労士は申し出る前に極めて慎重に判断していたのです。
  でも一般の方は、そういう記録があると「年金が増えるかな」と軽い気持ちで社会保険事務所(現在の年金事務所)に相談に行かれる。
  そして、実際に記録をつなげてみたら年金が下がってしまうのですが、「間違えていたものを正しく修正」して年金額が下がったわけだから仕方がない。泣く泣く減額になった年金を受け取ることになっていたのです。
目をつむるという救済策は不公平ではあるのですが
  ところが年金の記録問題が明らかになった以降は、年金事務所は対応を変えています。
  年金事務所に相談に行き、漏れていた期間を入れて訂正をする時には必ず試算をしてもらい「年金額が減る」と判明したケースでは、「手続きを申し出ないこと」として申請しないで帰ってもらう。つまり記録が出てきたものでも、(言い方は悪いですが)間違えたままの状態で放置するという処理を認めたのです。
  これは、「早く申し出た人」と「後になって申し出た人」とで大きく取り扱いが異なったことを意味します。本来ならば申し出た時期の違いによって差をつけることは許されません。
  そもそも年金問題が噴出する前にこのような疑問(自分の年金記録に疑問を持つこと)を持つ人は、年金に極めて関心の高い人です。
  そんな関心の高い人は不利を被り、いい加減に放置しておいた人は有利になる。
  該当数が少ないせいなのか、運用3号のような問題になりませんでしたが、「年金の救済策」が「不公平を生んだ」という事例かと思います。救済策には大抵こういう問題がついて回ります。
2011.04.11
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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