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知ってビックリ!年金のはなし
第111回 震災による遺族年金の取扱い
 
被災された方にお見舞い申し上げます
  東日本大震災で亡くなられた方にお悔み申し上げるとともに、被災された皆さまには心よりお見舞い申し上げます。
  さて、今回は震災に関連する年金について、最近の話題を取り上げます。公的年金には、「老後の年金」「障害年金」「遺族年金」と3つの種類があるのは皆さんご存じだと思いますが、このような大震災が起きたときには老後の年金よりも、障害年金および遺族年金、その中でも遺族年金が重要になってきます。遺族年金についての動きが新聞報道等でありましたので、触れてみたいと思います。
本来なら1年たってから請求
  国民年金法には次のような規定があります(同じような規定は厚生年金保険法にもあります)。
  「遺族基礎年金等の支給に関する規定の適用は、船舶や航空機の事故で行方不明となった者の死亡日については、その生死が3ヶ月間わからないときや、3ヶ月以内に死亡が明らかになったが死亡時期がわからないときは、その事故にあった日を死亡日とします。」(18条の2関連)
  「遺族基礎年金等の支給に関する規定の適用は、民法の失踪宣告(行方不明から7年後、特に死亡の可能性の高い危難に遭遇した場合は1年(今回の震災の場合はこちらに該当))により死亡したとみなされたときは、行方不明から7年が経過した日(一般に地震や津波等が原因の場合は1年経過した日からさかのぼってから震災のあった日)を死亡日とみなします。なお、遺族基礎年金の保険料納付要件や生計維持関係などの支給要件は、行方不明になった当時の時点で判断することとなります。」(18条の3関連)
  遺体が発見されて死亡が判明した方は、通常の請求手続きで遺族年金を請求することになるのですが、行方不明者の数はおよそ11,000人(5月1日現在)といわれています。もちろんこれからも捜索により遺体が発見され、死亡が確定する方もいらっしゃるでしょうが、沖に流されてしまった等の場合はまず発見は困難で、この失踪宣告で対応されることになると思われます。
船舶や航空機には特別な規定がありますが
  船舶や航空機の事故の場合は上の条文で明らかな通り、事故から3カ月たてば年金の請求ができることになります。しかし、津波にのまれたというような場合は「船舶や航空機の事故」ではありませんから、本来ならば規定通り1年以上経過した後、利害関係人からの申立により失踪宣告が裁判所に申し立てられその宣告を受けるという形になり、それから年金の請求になります。
新たな措置が設けられるようです
  いろいろなマスコミ報道によると、「東日本大震災について津波などで行方不明になった人について、厚生労働省は4月2日までに、災害で死亡したと推定するまでの期間を現行の「1年」から「3カ月」に短縮する方針を固めた」とのことです。
  本来であれば、失踪宣告ができるまで1年間待つ必要があるのですが、これを航空機や船舶での遭難と同じように3カ月に短縮し、遺族年金の受給手続や相続等を速やかに行うための準備ができるようにするものです。
大黒柱を亡くされた方の救いに
  今回のような特別失踪の場合、危難が去ったときが「死亡した日」としてみなされるわけですから、地震の起こった日が死亡日とされ、その日をスタートに遺族年金が支給されることになります。一家の大黒柱を亡くした家族の生活のためには、遺族年金は必要不可欠です。そのためにも一刻も早く年金を受け取れるように措置を講ずることは大変良いことです。
  あとは、このような制度があるのだということ、あるいはこのような特例措置があるのだということを該当者の方に誰かが周知し、かつ積極的に利用するように案内をしてあげることがとても重要になります。
  失踪宣告という制度は、利害関係人の申立により行われるものですから、せっかくこのように条件整備をしたとしても申立がなければ前に進まず絵に描いた餅です。手続きが遅れれば遅れるほど被災された方の救済がどんどん遅れてしまうからです。
  3月11日から3カ月後は6月中旬、それまでにどういう動きがあるのか、注意して見守っていきたいと思います。
2011.05.09
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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