第112回 未支給年金の処理
未支給年金は必ず発生する
国民年金、厚生年金の公的年金は、2カ月ごとの15日に受け取ることができ、かつその支給月に支払われるのは前月および前々月分の年金であるということは、ご存じの方も多いと思います。
例えば2、3月分の年金が4月15日(15日が土日に該当しない場合。以下同じ)に振り込まれます。
そうすると、年金を受給中の人が死亡した際には必ず「年金が全部支払われないで残る」という事象が起こります。
もっと詳しく言うと、年金は日割りという概念がありませんから、死亡日4月1日から30日までの4月中であれば、4月分の年金が発生します。4月中に死亡した人は全員、4月分の年金が発生し、本来ならば4月分の年金に応答する6月15日が支払月になりますが、残念ながら既に死亡されているのですから誰も6月には年金を受け取ることができない、つまり支払われない状態になるのです。また死亡日との関係で、例えば3月5日に死亡した場合には、2月分および3月分の2カ月分のいずれも、受給権者が4月15日に生存していないため、支払われない状態になります。この他に、貰えるのに請求をしなかったため貯まっていった年金も同じです。
このように、死亡により支払われなくなった年金を「未支給年金」といいます。
ついうっかり「相続」と言ってしまう
今回の大震災に関連し、法律に詳しい方がいろいろと救済措置を説明されている中で、年金に関して一部不正確なことがネット上で書かれていました。
亡くなられた方の年金について、「失踪宣告」とか「相続」などと同じ取り扱いと混同し誤解されたのか、死亡時の公的年金に関して「相続財産として相続人に支給される」というような説明をされていたのです。もちろん既に支払われて死亡した人の口座に入っている年金はその人の財産であり相続財産です。しかし残念ながら、先に述べたような「未支給年金」は「相続制度における相続財産」にはなりません。
普段から年金に接している人は当然知っていることですし、相続等の実務を取り扱っている弁護士さんなどは間違えられることはないと思いますが、慣れてないとついうっかり「未支給年金は相続人にいきます」という説明をしてしまう可能性があります。
では、どこが決定的に違うのでしょうか。
受け取る要件は
法律上未支給年金は、「遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹)で、かつ生計を同一にしていた者」が受け取れることになっています。
生計を同一にしたという要件が入っているのですね。
つまり、田舎に父母を置いて子どもが東京で就職し家庭を構え、お互いが独立して生活をしていたような場合、夫婦のうち夫(父)が死亡した際の妻(母)、あるいはその逆で妻が死亡した際の夫は、通常は夫婦なら生計を一にしている関係ですからその未支給年金を受け取ることができます。しかし、もし夫(父)が死亡した後に次いで妻(母)が死亡した場合、残された子は母の年金を、子と生計を同一にしていたという事実がない限り、受け取ることができなくなるのが原則です。
相続なら、そんな生計維持というような要件は全く必要なく、当然に母が貰えるであっただろう年金を子どもが受け取ることができるでしょう。5月に死亡して、年金は発生したのに5月分の年金を生計同一関係がないと貰えないのはおかしいじゃないか、と言われるかもしれませんが、法律上明記されているので仕方がありません。
年金を受ける権利は私たちの通常の財産とは区別して考えているのでしょう。どうもしっくりこなくても、受け入れるしかありません。
共済年金はちょっと違います
ところで、この未支給年金の取り扱いに関し(名称は少し違いますが)、共済年金はちょっと違います。
未支給年金については、遺族または相続人が受け取れるとされており、「生計維持」という要件が入っていません。
ということは上記のご夫婦の息子さんのケースで、配偶者を亡くした夫または妻が老齢共済年金を受けていた場合は、子どもが東京で家庭を構えていて、全く生計を一にしていないケースでも、受け取ることができるのです。
2011.05.09
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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