第113回 ねんきんネットを試してみる
ねんきんネットを試してみる
今年の4月から、日本年金機構のウェブサイトに、“「ねんきんネット」によりお客様の年金情報が簡単にご覧になれます”という案内が載せられています。
家に居ながらパソコンで直接、年金事務所で得られるような情報がわかるのだそうで、今回は実際にどのようなものか実体験で試してみました。以前にも似たような情報サービスがありましたが、少しでも年金のしくみがわかるように改善されていればよいのですが。
パソコンに慣れている方は問題ないのですが
ねんきんネットを利用するのにまず必要なものは、「基礎年金番号」および送付されてきたねんきん定期便に記入されている「アクセスキー」です。これを、パソコンの日本年金機構のウェブサイトから入力していくことになります(アクセスキーのまだ届いていない方は別途そちらを取得してもらうことになります)。
基礎年金番号とアクセスキーの準備ができましたら、ねんきんネットのサイトから「アクセスキー」「基礎年金番号」「住所氏名」「自分で設定したパスワード」「メールアドレス」等を入力して、まず、「ユーザーID」を取得する手続きをしなければなりません。
必要情報を入力し送信すると、登録したメールアドレスに、“「ねんきんネット」ユーザーID確認用URLのお知らせ”というメールが来ますから、パソコンまたは携帯電話からユーザーIDを確認するということになります。
これでやっと準備完了、ユーザーIDを使ってログインし自分の年金の内容を見ることになります。
パソコンに慣れていらっしゃる方にとっては、いったん情報を入力・送信し、メールでユーザーIDが返信されてくるような登録手順は普段から目にされており、なんていうことではないのですが、年金のことが気になる方の多くが年齢的に50歳以上の方で、またコンピューターに苦手感のある女性のほうが男性に比べ、より興味ある場合が多いことを思うと、まずここが大きな第一関門のような気がします。
また、次回以降の照会に備えてユーザーIDとパスワードも忘れないように保存しておく必要もあり、扱いには注意を要します。
現時点ではあまりメリットがない内容しか得られない
私はお客さまよりご依頼を受けて、設定を完了させログインして一応全項目を見てみましたが、基本的に提供される内容は、58歳時点の年金定期便とほぼ変わらず、現時点ではあまり積極的に使うほどのものでもないようだ、いうのが第一印象です。
インターネットで打ち出されるより、ねんきん定期便(58歳時)の内容のほうがむしろ見やすい感じです。
とはいえ、58歳時の記録は何回も送付されてくるわけではありませんし、該当年齢以外の方にとってはリアルタイムで年金の詳細がわかるというメリットがあるのは間違いありませんので、使い方によっては有用でしょう。
将来に向けての期待
なぜ今回、ねんきんネットを使うようにご依頼を受けたかというと、依頼者は現在60歳を超えて会社に在職中で在職老齢年金を受給できる方なのですが、同時に遺族年金を受ける権利のある方で、どちらの年金を選ぶかとうい微妙な問題が常にある(賞与額が変われば在職老齢年金額が変わり、遺族年金とどちらをもらうかという年金の選択が変わる可能性がある)ため、リアルタイムの「年金額が知りたい」というご希望があったからでした。
ただ残念ながら、在職老齢年金の調整額について全く資料を得ることはできませんでした。これは近いうちに対応がなされるようですが、現時点ではまだ未対応です。
ねんきんネットが威力を発揮するのはまさにこういうときだと思います。在職老齢の年金額がコロコロと(報酬と賞与によって)変わる。その状況確認がリアルタイムでできると、ものすごく便利です。
同時に、繰上げや繰下げ支給を検討されている方も、「今繰り上げればいくらだろう」「今繰り下げればいくらだろう」という試算ができると、とても楽です。
記録よりも、こういったシミュレーションやリアルタイムな状況表示機能が充実すると利用価値が格段にあがります。
最も大きい問題、「わかる人がいないとわからない」
ねんきんネットの最大の問題は、システムそれ自体ではなく、年金が難しすぎて詳細な内容を打ち出されても、「その内容がわかる人が説明しないと、わからない」ということです。これはねんきん定期便についても同じです。
今はまだ記録等の情報だけですが、在職老齢とか繰上げ繰下げという情報まで手に入るとき、年金知識が少ない人がそのような詳しい情報を見ることはかえって誤解を招きます。
そこで、ねんきんネットの内容の意味がわかり、かつ的確なアドバイスや助言ができる人が身近に増えてこないと、これを実施する意味がないのです。
内容がわからないからといって年金事務所に行って相談するなら、最初からそうすればよいわけで、ネットにする意味がありません。
2011.06.06
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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