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知ってビックリ!年金のはなし
第114回 親切という名の迷惑
 
年金をもらいたいのだが
  ずいぶんと年齢を召した方が年金のご相談におみえになりました。
  話を聞くと、年齢は70代後半。年金をお受け取りになられているかと思えばそうではなく、全く貰っていないとのこと。
  聞けば、ほんのわずかの期間ですが、年金を受け取る年数に加入期間が足りないのです。
  この方の場合、保険料を払われた期間はずっと厚生年金なので、厚生年金の加入期間が20年あればよいのですが、その年数が20年にちょっと足りないのです。さて困りました。
これは怪しい
  お客さまに書類を見せていただいたのですが、その中に、同じ会社の名前で、一度加入されまた1年後に復職されている記録がありました。しかも辞められたときと、また新たに採用になったときが同じ報酬額。誰もが、「これはおかしいな」と思います。
  念のため聞いていました。「記録ではこの時期、会社をお辞めになってから復職されたことになっていますが、その間の1年間(未納)は何をされていたのですか?」と。
  ご本人は、「そのとき会社を辞めてなんかいない」とはっきりおっしゃいました。
  若いころの記憶ですし、会社を辞めて1年後に同じ会社に入ったというのは特別なことですから普通は記憶が鮮明で間違いないでしょう。ですが、記録がそうなっている以上どうしようもありません。
こうなると厳しい
  あれこれと期間計算してみますが、計算してもその穴があるため、他に記録をつなぎ合わせてもなかなか20年に達しない、非常に厳しい状態です。
  若いころですから、ご本人はこんなたった1年の年金の空白期間なんて、何とも思っていなかったのでしょう。しかし、実際に話がこじれてしまうと本当にその1年のせいで、厄介で残念なことになってしまいました。
  お持ちいただいた資料にも、年金事務所をはじめあちこちで相談をされたようなメモ書きの痕跡が残っています。どの相談者も厳しい現実にため息をつかれたことだと思います。
さらなる追い打ち
  年金受給に必要な期間が満たせなくて、この方のようにもう少し(1年もない)の期間で20年となる場合、厚生年金に任意加入をするという最後の手段が残っています。
  70歳を超えていても会社で働ければ、「事業主の同意がなくても高齢任意加入被保険者になることができる」というしくみです。 70代という年齢から可能性は限りなく低いですが、ゼロではありません。
  任意加入の厚生年金の保険料は(事業主の同意がない場合)、全額自己負担ですので、70歳未満の通常の厚生年金加入者に比べると、会社負担がない分、2倍の保険料負担となりますが、非常時ですからそんなことは言っていられません。また事業主としても、70歳を超えた人ですから会社の戦力としてもあまりあてにもできず、年金の権利を受けるためのいわば形式的な雇用ですから、そうでもしないと雇入れはしてもらえないでしょう。
  ところがこの方は、この高齢任意加入をする意味をなくす行動をされていたのです。年金がもらえないということで、たぶん年金事務所で相談をしたときに、「一時金として清算ができますよ」というようなことを担当者に教えてもらったのでしょうか(そうでないと普通の方はご存じありません)、「今までかけてきた年金十数年分を全部一時金として清算(脱退手当金の受給)をしてしまった」のです。基本的に現在は年金を一時金清算できないのですが、条件によってはできる方もいらっしゃるのです。
  しかしこれは本当に失敗でした。幸運なことに今からどこかに働き口が見つかって1年働くことができたとすれば、1年後に年金を受けるために必要な20年は満たします。満たしますが、受け取る年金額はその1年分に応答するものだけの、極めて少額になります。そうです、それ以前の年金の分は一時金として清算し終わっているわけですから年金額には結び付かない「カラ期間」なのです。
  年金事務所(当時の社会保険事務所)の担当者は、年金を全く貰えないのはかわいそうだからと親切で「一時金で清算のできる制度を教えてあげた」のかもしれません。しかしその親切心のために、この方は極めて厳しい状況になってしまったのです。
  「一時金の清算(脱退手当金の受給)はできてもするな。するなら亡くなったとき」。勉強を始めたころ某先輩からずいぶんと言われていたことなのですが、このことを思い出しました。本当に年金は怖いです。
2011.06.06
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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