お客さまに書類を見せていただいたのですが、その中に、同じ会社の名前で、一度加入されまた1年後に復職されている記録がありました。しかも辞められたときと、また新たに採用になったときが同じ報酬額。誰もが、「これはおかしいな」と思います。
念のため聞いていました。「記録ではこの時期、会社をお辞めになってから復職されたことになっていますが、その間の1年間(未納)は何をされていたのですか?」と。
ご本人は、「そのとき会社を辞めてなんかいない」とはっきりおっしゃいました。
若いころの記憶ですし、会社を辞めて1年後に同じ会社に入ったというのは特別なことですから普通は記憶が鮮明で間違いないでしょう。ですが、記録がそうなっている以上どうしようもありません。
年金受給に必要な期間が満たせなくて、この方のようにもう少し(1年もない)の期間で20年となる場合、厚生年金に任意加入をするという最後の手段が残っています。
70歳を超えていても会社で働ければ、「事業主の同意がなくても高齢任意加入被保険者になることができる」というしくみです。 70代という年齢から可能性は限りなく低いですが、ゼロではありません。
任意加入の厚生年金の保険料は(事業主の同意がない場合)、全額自己負担ですので、70歳未満の通常の厚生年金加入者に比べると、会社負担がない分、2倍の保険料負担となりますが、非常時ですからそんなことは言っていられません。また事業主としても、70歳を超えた人ですから会社の戦力としてもあまりあてにもできず、年金の権利を受けるためのいわば形式的な雇用ですから、そうでもしないと雇入れはしてもらえないでしょう。
ところがこの方は、この高齢任意加入をする意味をなくす行動をされていたのです。年金がもらえないということで、たぶん年金事務所で相談をしたときに、「一時金として清算ができますよ」というようなことを担当者に教えてもらったのでしょうか(そうでないと普通の方はご存じありません)、「今までかけてきた年金十数年分を全部一時金として清算(脱退手当金の受給)をしてしまった」のです。基本的に現在は年金を一時金清算できないのですが、条件によってはできる方もいらっしゃるのです。
しかしこれは本当に失敗でした。幸運なことに今からどこかに働き口が見つかって1年働くことができたとすれば、1年後に年金を受けるために必要な20年は満たします。満たしますが、受け取る年金額はその1年分に応答するものだけの、極めて少額になります。そうです、それ以前の年金の分は一時金として清算し終わっているわけですから年金額には結び付かない「カラ期間」なのです。
年金事務所(当時の社会保険事務所)の担当者は、年金を全く貰えないのはかわいそうだからと親切で「一時金で清算のできる制度を教えてあげた」のかもしれません。しかしその親切心のために、この方は極めて厳しい状況になってしまったのです。
「一時金の清算(脱退手当金の受給)はできてもするな。するなら亡くなったとき」。勉強を始めたころ某先輩からずいぶんと言われていたことなのですが、このことを思い出しました。本当に年金は怖いです。