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知ってビックリ!年金のはなし
第116回 健康診断で異常を指摘されたら
 
袋から身体障害者手帳が
  もうすぐ60歳になられる女性の方が手続きのご相談にいらっしゃいました。お話の途中、いろいろな年金関係の書類が入っている袋の中から、ポロリと「身体障害者手帳」が転がり出てきました。事情を聴くと、15年前に「人工弁」の手術をされたのだとか……。
  こういうケースでまず思い浮かべるのは、老齢厚生年金の障害者特例です。
  障害者特例(障害等級3級以上)に該当すると、老齢厚生年金は定額部分が報酬比例部分と併せて支給されます。この女性(昭和26年生まれ)の場合、60歳から報酬比例部分を受け取られ、63歳から定額部分の年金を受け取られます。その定額部分は3年繰り上がり、60歳から定額部分と報酬比例部分を受け取ることができるようになります。
  条件として退職している事(厚生年金の被保険者でない事)が必要ですが、それはクリアされていました、というかとっくの昔に会社は退職されていたのです。
もっとよく聞いてみると
  このお客様は、今述べたように老齢厚生年金の定額部分を早く貰うことができます。しかしこの方は厚生年金の期間がそんなに長くありませんでした。勤務期間は5年程なので定額部分は約10万円(年間)です。ただ定額部分が早く貰えるのが3年間だとしても合計で30万円貰えるわけですから悪い話ではありません。
  しかし、さらにいろいろとお話を聞くと、驚くことに初めて病気を指摘されたのは30年以上も前の「厚生年金加入期間」だったのです。5年ほど働いていたその短い厚生年金の加入期間に初診日があるのでした。
  そうなると話は変わってきて、障害厚生年金が受けられるかどうかの問題となります。
  初診日が「厚生年金加入期間」であり、その後病気が重篤化し障害等級に該当するようになったのならば、その認定日から障害年金がもらえるのです。最低でも年間60万円弱。
  人工弁は多くの場合、障害等級3級に該当しますので、初診日から治癒をせずに、最終的に人工弁を入れた場合は、その時から障害年金が貰える可能性の十分あるものでした。
余りにも昔すぎて
  ところが、30年という時間はあまりにも長かったのです。何らかの診療記録や、カルテその他の証明できるものを持っていらっしゃるならば話は進むのですが、あまりにも昔すぎてそういうものを一切お持ちではありませんでした。
  障害年金は、初診日=初めて病院にかかった日を特に大切にしますので、こうなると「初診日が不明=証明書が取れない=障害年金は手続きできない」ということになります。この方の場合、残念ながら障害者特例による老齢厚生年金の定額部分の優遇措置しか受けられなさそうなのです。
健康診断で異常を指摘されたら
  会社にお勤めの期間に病気を発症した場合、その後会社を辞めた後に病気が重篤化したとしても障害厚生年金と障害基礎年金を受け取れます。しかし会社を辞めてから病気になってしまったら障害基礎年金しか受け取れません。これは保険営業に携わっているみなさんには当然の知識なのかもしれません。
  しかし、病気といっても千差万別。初診日から一進一退で10年、20年経ってから急に重くなり「規定の障害等級に該当する」となることもあるでしょう。その場合、理屈の上では障害厚生年金を貰えても、実際に証拠立てるものがなければ年金は貰えないという事になります。そうならないよう注意をしておく必要があると思います。
  在職中に、将来に向けて長引く可能性のある病気と診断された場合(例えば糖尿病や心臓・脳関係の疾患、腎臓・肝臓の疾患等)、面倒がらず最初にかかった病院での何らかの証拠書類(検査結果のペーパー・診察券・何でもOKです)を残しておくことをお勧めします。何を残せばいいかわからなければ、すべて保存しておくのがよいでしょう。
  10年、20年経ってもきちんと病院にカルテが残っていて、その病院が初診日の証明書を書いてくれるのであれば年金請求に関して問題はないのですが、カルテにも保存期間がありますし、長い時間が経てば病院自体が存在していないことだってあり得ます。
  初診日の病院の診察券やその他諸々の物証があってもだめな場合もあるかもしれませんが、少なくとも何もないよりははるかに認められるように働きかけることができます。
  長引く可能性のある病気に罹り、その後会社を辞める、あるいはその可能性のある人は、何でもよいので診察を受けた証拠を残しておく。ちょっとしたことですが、その心掛けが後の年金額に大きく影響してくる可能性があります。
2011.07.11
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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