第117回 ほんのわずかの違いで寡婦年金が貰えず
ご主人は国民年金を24年かけていた
この前お会いした女性のお話です。
現在62歳で、「遺族年金を受給しているのですが自分の老後の年金が気になる」ということでした。
この方のご主人は10年ほど前にお亡くなりになられたのですが、亡くなられた時は脱サラされていて国民年金加入中で、脱サラ前に8年ほど会社勤めがあり厚生年金に加入されていました。
したがって、国民年金(24年)+厚生年金(8年)=32年 の加入期間となり、老後の年金を貰う権利を有していました。
ご主人は不幸にしてお亡くなりになられたので、老後の年金を貰うことはなかったのですが、この保険料納付実績ですと遺族厚生年金の長期要件に該当し、奥さまはご主人の死亡により遺族年金を受け取ることができたわけです。
遺族厚生年金はでるのですが
さて、この方の遺族厚生年金はいくらでしょう?
賢明な方はお分かりなっていらっしゃるかもしれませんが、これが相当に低額なのです。
なぜなのでしょう?
遺族厚生年金の計算を思い出してください。
遺族厚生年金は、老後の年金の4分の3が原則です。万一、若くして厚生年金に加入中に死亡した場合は25年間加入しているものとみなして計算されますが、それでも給与平均30万円、賞与3.6カ月(年間)だとしてもたかだか年間50万円ほどにしかなりません。
40歳から65歳まで受け取ることのできる「中高齢寡婦加算(おおよそ59万円)」(子供の有無、年齢によっては40歳から貰えない場合もあります)がついてやっと109万円前後、月額9万円の年金になるのです。
中高齢寡婦加算のつかない本体の遺族厚生年金だけでは月額5万円にもなりません。つまり中高齢寡婦加算がないパターンの遺族厚生年金はもうその時点で安いということが想像できるのです。
中高齢寡婦加算も経過的寡婦加算もつかない方なので
この方のご主人の場合は、老後の年金を受け取ることのできる加入年数(受給資格期間)を満たした後に亡くなられた長期要件に該当しているので、遺族厚生年金は、25年加入したものとはみなされず実際の加入期間のみで計算されます。
しかも長期要件の中で中高齢寡婦加算を受けるために必要な20年の厚生年金加入という要件も満たしていないため、とても低額な遺族厚生年金となるのです。
お聞きしたところ遺族厚生年金は年間21万円ほどでした。この遺族厚生年金を65歳まで受け取ることになるのです。
もう1年多く国民年金に加入していれば
国民年金の独自給付として、寡婦年金という年金があることをご存じの方も多いと思います。
要件はご主人が25年以上第1号被保険者であり、婚姻期間が10年以上あることとなっています。国民年金に長く加入されていたご主人が亡くなった場合に、60歳から65歳まで受け取ることのできる有期年金です。
この方の場合は、ご主人が加入していた期間は残念ながら24年で、25年に達していなければいけない要件を満たしていませんでした。
もしご主人が亡くなったのが1年後で、国民年金の加入期間が25年に達していれば状況は少し変わってきます。
ご主人が国民年金に25年加入していた場合の寡婦年金は、
788900円×25年/40年×3/4で、37万円ほどになります。
額としては少ないですが、現在の遺族厚生年金よりもだいぶ多く、60歳までは遺族厚生年金を、60歳からは寡婦年金を選択する方が、60歳からの5年間で80万円(16万円×5年)ほど受取額が多くなります。
早ければ早いほど
老後の年金と違い、遺族年金や障害年金はいつ受け取ることになるかの予想がつきません。偶然が左右することになるのですが、老後の年金を受け取ることのできる受給資格期間(加入期間25年)に達する期間が早ければ早いほど(特に国民年金のみの方は、寡婦年金等のことを考えると)、有利になるのです。
たとえば自営業者の方で、納付と未納を繰り返し、50歳時点の国民年金の納付期間が23年、未納が7年あった方が亡くなったとします。この方の場合は死亡一時金が17万円出て終わりです。
ところが、まじめな方が20歳からきちんと保険料を掛け続けていて45歳のときに死亡した場合、残された妻には寡婦年金が支給されます。年金額は上で説明したように37万円。一時金ではありませんからこれが5年間で185万円になります。
若い方にとっては老後が遠いこととはいえ、未納などせずきちんと年金を掛けていたほうが有利かということがわかると思います。
2011.08.15
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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