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知ってビックリ!年金のはなし
第118回 私の年金保険料は無駄がけなの?
 
保険料がきちんと反映されるかどうか
  さて前回の女性の続きですが、ご主人が亡くなるまで、ほんの数年間ですが厚生年金加入期間があったそうです。そしてその後、ご主人が亡くなったので新たにご自身で小さな会社を立ち上げられたとのことです。
  60歳の時の年金手続きでは、厚生年金の加入期間が短かかったため、特別支給の老齢厚生年金額は5万円ちょっとでした。当然ですがこちらより遺族厚生年金(21万円)のほうが多いので、60歳時点では遺族厚生年金を選択して受け取っています。
  そこまでは良いのですが、そこから今後の年金のことをお尋ねになってきました。
  奥さまが気にされていた点は「私の支払った保険料は活かされているかどうか?」、つまり年金に反映するものかどうかでした。
  60歳までの間であれば答えは簡単です。
  確かに老後厚生年金の部分は、遺族厚生年金より少額なので、保険料を支払う意味は薄いかもしれません。しかし、国民年金(老齢基礎年金)については保険料納付が国民年金額に反映するので、支払う意味は十分にあります(厚生年金の保険料を支払っても、実質的に老齢基礎年金しか増えないため効率は悪いですが)。
  しかし、60歳を過ぎた後はどうでしょうか?
  60歳を過ぎたらもう国民年金には加入していないので、保険料を払ったとしても老齢厚生年金年金額のみしか反映しないことになります。もし遺族厚生年金が圧倒的に多い場合には、今後保険料を掛け続けても遺族厚生年金額を上回るようにならない限り、保険料を支払う意味がありません。
調べてみましょう
  先に述べたように、遺族厚生年金が圧倒的に高い場合は「これから保険料を払っていけばよいかどうか」というお客さまの質問にすぐに答えられます。
  ところがこの奥さまの遺族厚生年金は約21万円で、額としてはそんなに多くありません。60歳時点でのご自身の老齢厚生年金(約55万円)との差額が約16万円ですから、もし65歳まで5年間働いた場合には、遺族厚生年金よりも老齢厚生年金が多くならないだろうか(妻自身の老後の厚生年金が遺族厚生年金を上回る場合は遺族厚生年金は支給されません)、ここはきちんと試算してみないと微妙ではないか、そう思いました。
  この部分をはっきりさせるため、年金事務所に出向いて老齢厚生年金の年金額試算を出してもらったところ、65歳の時点の老齢厚生年金見込額が約22万円になることがわかりました。
  65歳の時点で年金額が再計算された場合はすでに逆転が起き、それ以降の保険料は無駄がけにならない、つまり掛けた分に相応してご自身の年金額が増えていくという状態になることがわかったのです(この保険料納付分を反映する年金額の再計算は退職時または70歳時に行います)。
判断は保留
  さっそく、「今後65歳を過ぎてからは年金額も増えますから、できるだけ長くお仕事を続けられたらどうですか? 70歳までとはいわないまでも、たとえば67歳までとか68歳までと区切りを決めて働いてみてはいかがですか?」という風にアドバイスをしました。
  しかしご本人は迷っていらっしゃる様子です。
  男性の経営者であれば、いつまでも仕事をしていたいという方が多いですし、社長夫人もそれを積極的に応援することが多いのです。私がもっと働いた方がいいと説明することが比較的容易に受け入れられます。
  しかし女性の場合、人生を楽しむ時間もほしいしので早めにリタイアする(65歳というのは世間的には早めとはいえないかもしれませんが経営者に限ると早いかと思います)という考えが頭をかすめる場合もあるのです。この辺は微妙に男女の仕事観の違いもあるのかなと思いましたが、まさにその通りでした。
やはり年金は難しい
  経営者の進退について、老後の年金額や現在の支払い年金保険料が判断材料となることはあまりないでしょう。今回の奥さまも、とりあえず自分の保険料がどうなるかという興味を持って聞かれただけなのかもしれません。
  奥さまは相談の最後に「年金は難しいわね」としみじみおっしゃいました。
  ご主人の国民年金保険料の支払いが死亡時に25年に達しなかったことで寡婦年金がもらえなかったこと。
  遺族厚生年金が長期要件に該当したため実加入期間(25年間加入したものとされなかったこと)で計算され、わずかだったこと。
  さらにその遺族厚生年金よりも自分の老齢厚生年金が少なかったため遺族厚生年金を貰い続けたこと。
  加えて今後厚生年金に加入し続けることで遺族厚生年金より自分の年老齢厚生年金の方が多くなること。
  確かに、年金の知識がない方がこれだけ年金の難問を解決しなければならないのは大変かもしれないなあ、そう思いながらお客さまの所を後にしました。
2011.08.15
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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