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知ってビックリ!年金のはなし
第12回 将来のことは誰にもわからない
 
歴史を振り返ると
 第二次大戦前、相当の資産があって家を建て替えようとしていた一家が、終戦後に円の価値がインフレで大暴落、家を買う資金が食料を買う程度にしかならなかった。こんな話を聞いたことのある方も多いと思います。
 厚生年金は昭和17年に始まったものですから、この時期から厚生年金に保険料を掛け続けていた人も当然います。
 しかし当時の社会情勢は、戦争にいつ召集されるかもしれない、日本にいてもいつ爆撃により命を落としてしまうかもしれないという状況でした。そのため「年金に入ってもしょうがないだろう」と思ったのかどうかわかりませんが、年金制度に対する信頼はあまりなかったように聞いています。事実、国の側でも、国民の福利を真に考えていたというより、戦費調達という目的があったと聞いています。

 ところが、この時期に厚生年金加入期間があった人は、年金の受給金額のところをみればかなり優遇されています。たとえば大正生まれの方は、1年間の保険料支払いで、年6万円近い年金を貰っているのです。

 実は、この6万円というのは相当に高い額です。
 現在では、給与が30万円程(賞与年3.6か月分)で1年働いても、受給金額は国民年金と厚生年金を合わせて4.7万円(年間)程度にしかなりません。このことからも厚生年金の初期の段階で加入していた人の受け取る年金額の有利さがわかるというものです。

 第二次大戦前後の激動期では、「現金という現物より」も「年金という権利」のほうが激しいインフレに対応ができたということであり、厚生年金の初期段階から保険料を払っていた人の方が、現金資産を貯めこんだ人よりも結果的に得をしたということになるのです。
戦争以外の時期でも悲喜こもごも
 話は変わりますが、昭和40年代頃に結婚退社された女性は、その時「脱退手当金」という一時金を貰い、厚生年金を清算された方が大半です。経験則でいえば9割くらいの方は一時金を貰っているようです。これを貰うと、それ以前の保険料支払期間は老後の年金には結びつきません。

 当時はまだ社会に「夫が働き、妻が家庭を守る」という考え方が色濃く残り、「老後も夫の扶養だから妻は年金が要らない」という考えが主流だったことが、一時金での清算が多かった第一の理由です。しかし、それ以外にも「老後のことなんかわからない、私が老後になったとき年金がどうなっているかなんてわからない」という考え方も脱退手当金を貰う理由として結構多かったように聞いています。

 そしてその後はどうなったのか。
 その当時、高校を出て女工さんとして5年くらい働いていた方で、その一時金をもし貰わなかったら、その期間の保険料支払いだけで、国民年金と厚生年金を合わせて年間15万円〜20万円くらいの年金を貰える計算になっています。当時一時金として数万円(貨幣価値が違うので今よりは価値があったとしても)のお金を貰うより、圧倒的に有利な結果となっているのです。
年金不信は年金の宿命なのです
 年金不信は最近の流行のように思われるかもしれませんが、公的年金という制度が日本に誕生してから現在に至るまで、いつの時代も年金不信は存在しています。
 しかし、今までの年金の経緯を見る限り、年金制度が崩壊するかといえば、おそらくそれは逆だと考えられます。年金は信用できないというネガティブな意見に従って、未納した人や一時金を貰った人は、残念ながら皆不利な状況を受け入れざるを得ない状況に置かれています。
 確かに今の財政状況などを考えると、年金制度の今後に不安を持つ人も多いでしょう。人によっては積極的に未納を奨励し(違法ですが)、貯蓄を勧めているようですが、そういうアドバイスをする人は、アドバイスを受けた相手の老後を保証できるのでしょうか。極論すると預貯金だって冒頭の第二次大戦の教訓に学べば老後の備えとして安心だと言い切れないと思うのですが。

 客観的で冷静な年金制度の不信に関する議論は大いに歓迎ですが、近ごろは、年金の宿命(=年金はお金を払う時期とお金を貰う時期が相当ずれているために「自分はもらえるだろうか」という不安が常に我々の頭の中に存在する)を前提とした感情的議論が多いことがすごく気になります。
2007.02.20
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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