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知ってビックリ!年金のはなし
第121回 年金確保支援法は通りましたが
 
年金未納の多い方が相談にいらっしゃいました
  年金相談には、未納滞納が多くて年金を貰えない方も時々いらっしゃいます。
  先週いらした女性の方もそうでした。
  納付期間は厚生年金が10年と2ヵ月、国民年金が3年と9ヵ月だけ。合計で13年11ヵ月でした。
  あと11年の納付となると、なかなか大変です。その方はもうすぐ60歳になられるので、通常であればぎりぎり未納分直近2年分を遡及納付し、あとは今後9年ちょっと任意加入でぎりぎり25年をクリアし年金がもらえることとなります。
  しかし、あと9年以上も保険料を納付し続けるのは、本当に気の遠くなる話です。
  ところが、今年の夏に保険料納付可能の期間を2年から10年に時限的に実施するという年金確保支援法が成立しました。まだ施行される前ですが、まさにこの女性のケースは法律が想定しているものであり、うまくいけばこの方は救済されます。
  さっそく、成立したばかりの年金確保支援法の説明を始めました。
顔が険しくなる
  ところが、年金確保支援法での未納分納付の話をしてもだんだん顔が険しくなっていくばかりです。
  聞けば、「とても10年分の保険料を支払うほどの経済的余裕はない」とのこと。
  本人は現在糖尿等の持病があるためもう働けず、しかもあれこれと他にも病気があり薬代も毎月平均9,000円を超え家計は火の車。ご主人は定年のない職人さんですが、長引く不況と年齢的なもので、依頼される仕事量が思うに任せずここのところ非常に稼ぎも少ないとのこと。
  「いったいどこに10年分の保険料にするお金があるのよ」
  とずいぶんとおかんむりになり、家庭の事情を話し始められました。
ここが踏ん張りどころなのですが
  年金確保支援法の成立にあたり「お金の余裕のある人だけを救済することになりはしないか」と議論されていたように、特例の救済があると必ず弱者切捨てというような意見が出てきます。法律が施行される前に、私はまさにそのマイナスの実例に直面したのです。
  2年分だけ保険料を支払い、あと9年弱保険料を払い続けるのは、長い長い道のりですが、10年分ポンと保険料を支払うことができれば、あとは1年ほど別途任意加入して保険料を払えば年金に結び付く、まさに救いの神です。こんないい話を聞いて、なんとかして納付をしたいけれど、悲しいかな「先立つものがない」状態。
  これは正直辛いですよね。私もその方の苦悩がわかりましたので、あまり刺激をせずずっと愚痴を聞いていました。
  現在の国民年金の保険料とほぼ同額のお金を年間18〜20万程度分保険料として支払うと仮定すると、10年分全額の追納で180〜200万円ほどのお金が必要です。どの程度になるかわかりませんが、利息もかかるでしょう。
  しかし、この方は納付期間がまったくなかったわけではないのですから、あと200万円程のお金を工面し納付すると、概算でも年間60万円程の年金を受け取ることができるようでした。
  200万円程のお金なら、3〜4年ほどで元をとってしまいます(以前に納付した保険料を無視してこれから支払う保険料だけで損得を考えるので厳密ではありませんが)。払う方が良いか払わない方が良いかと問われれば、払う方が良いに決まっています。いやここは絶対に無理をしてもお金を工面するべきです。
お金のない人に対してどうするか
  世の中には、未納滞納をして年金を貰えなくなった方たちに対して、自業自得だからと冷たく言う人がいます。
  確かに未納滞納した方に責任があるとはいえ、そういう年金がもらえない人たちの中で、お金に余裕がある人は今回の救済措置のおかげでその過去を修正することができ、お金の余裕がない人は救済されずに無年金で老後の生活に大きな不安を残したままの状態になるのです。
  結局その日いらしたお客さまの中でもその方はなかなか腰をあげていただけず、一番長い相談時間となりました。
  本音を言えば年金がほしくてたまらない、でも先立つものがない。
  やり場のないイライラがたまっていらっしゃるのでしょう。ただでさえ、年金が貰えないかなあと思いつつも、もしかしてという期待感で相談会にいらしているのです。
  こういう方の救済も少し考える必要があるのかもしれません。最後に生活保護等になってしまうならば、事後的にですが半額だけ納付して半額免除にする等の新たな救済措置も必要かもしれません。しかし一方で無理して今までがんばって保険料をきちんと納付してきた人とのバランスをとる必要もあり、難しいところです。
2011.10.11
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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