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知ってビックリ!年金のはなし
第122回 永住外国人または国籍変更者とカラ期間
 
外国人の未納滞納はやはり多い?
  外国人の保険料の納付に関するお話は、以前93回、94回で書きました。今回はそれに関連する話です。
  今月初め、ある外国人の方と年金の話をしました。その中で、日本に住む外国人の公的年金の未納の話になりました。
  お話した方は日本の永住権を持ち、日本の大手企業にお勤めで厚生年金の保険料を強制的に徴収されている方でしたので未納滞納はありませんでしたが、やはり周囲の外国人(会社勤めではない方)の中には、「国民年金の保険料を納付されていない方がとても多い」という事をおっしゃられました。
  日本の年金制度では、日本人と外国人という点での差がなく、外国人といえども日本に住んでいる限り年金保険料の納付義務が生じます。
  しかし、外国人に関しては言葉の問題等もあり、加入および保険料の納付義務があることの周知が徹底されていないこと、国によっては国や政府その他の公的な機関の信用が極端に低くその国の国民が行政や政府をまったく信じない状況があったりすること、年金制度等社会保障が整備されていない国から日本へ来て年金制度、社会保障制度のしくみへの理解が薄いこと、理由は様々ですが未納が生じてしまう要素が多分にあります。
  また、日本にずっと住む意思のない方にとって、日本はあくまでも一時的な腰かけの場で、年金なんか入るだけ無駄だと思う方が多いこともあるだろうと思っていました。
  ところがその方は、そのような腰かけの人だけではなく、日本の永住権を持った方や国籍を変更された方(外国人というより正確には元外国人というのでしょうか)であっても、保険料の納付率が低いとおっしゃるのです。
  永住権を持っていたり国籍を変更された方は、日本にこれからも長くまたは一生いると覚悟を決めた方々ですから、日本在住が一時的な腰かけという意識はありません。それでも一時的に働きにこられた方と同じように、未納滞納が多いとおっしゃるのは意外なことでした。
貰えないから払わない
  その方の周囲の方は
  「日本の年金は25年保険料を納付しないともらえないらしい。しかし自分は35歳の時に日本に来た。そこから後5年ほどは生活も安定せず年金保険料をまったく納付していない状態で今は40歳。今から保険料を納付し始め、1ヵ月も欠けることなく保険料を納付しても、権利が発生するのは65歳。しかも納付月数が少ないからまとまった額にはならないので意味がない」
  このような理屈で、だんだんと保険料を納付する意識が薄れていくのだそうです。
  確かに、年金が貰えないかもしれないというリスク(後で述べるように本当は正しくないのですが)が高まると「年金保険料を掛けようというモチベーション」が極端に低下することも否めません。
カラ期間という制度があることを知らない
  その話を聞いて私はびっくりしてしまいました。
  腰かけのつもりの外国人の方はともかく、定住意思のある外国人(あるいは元外国人)の方は、年金を貰う点に関してはそんなに不利ではありません。
  日本に帰化した人、永住許可を受けた人などが日本に来る以前の海外在住期間は「合算対象期間=カラ期間」になります。
  上の方でいえば、日本に来る前の20歳から35歳までの間、15年の間はカラ期間になりますから、あと10年保険料を納付すれば年金を受ける権利が発生するのです。
  ある程度の年齢になって日本に来た人たちは、25年という長い期間の保険料が払えないから外国人には不利だという考えなのですが、実際には永住者や帰化者は、「日本に来る前の外国にいた期間」をカラ期間として見てくれるのですから、日本にずっといる日本人より年金に結びつきやすいかもしれない。そういうことなのです。
  私がそのことを話したところ、びっくりされていました。「そんな仕組み(カラ期間のこと)があるのを知っているなら、もっと保険料を払う人は多いと思いますよ」と。
年金の難しさと周知の難しさ
  知っていれば支払うのに、ということですが、残念ながらそのような仕組みを外国人の方に教えてくれたりする人や機会があまりないのが現実です。年金事務所に置いてあるチラシやパンフレットではあまりにも影響力がありません。
  しかもカラ期間というのは、年金を専門にしている人にとっても難しい内容を含みますので、年金に詳しくない普通の方が外国人の方にあれこれと説明することも難しいのでしょう。
  しかし、せっかくカラ期間というおいしい仕組みがあるのにその知識がなく、なおかつ知識がない故にモチベーションが下がって未納滞納を繰り返してしまうのであれば、これはとても不幸なことです。
  子供たちへの年金教育の必要性が叫ばれて久しいのですが、外国人へのきちんとした年金制度の説明も必要なのかもしれません。
2011.10.11
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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