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知ってビックリ!年金のはなし
第123回 とってもマイナーな話が突然降りかかる
 
んっ、59歳から支給開始?
  「あのう、自分は59歳から厚生年金がもらえるはずで、来月59歳になるんですが、手続き書類が何にも届かないんです。本当に59歳から年金を貰えるんですか?」
  ご相談にお見えになった方に、先日いきなりこう切り出されました。
  59歳? あれ、なんで?
  一瞬頭の中の思考が止まり混乱しましたが、持参いただいた「ねんきん定期便」を見て、いろいろ話をお聞きして納得。この方には船員保険に加入していた期間が20年以上あったのです。
  非常にマニアックな話で恐縮ですが、船員および坑内員(以前炭鉱で働いていた方)の履歴のある方で、その期間が15年以上ある場合には、昭和28年3月までの生年月日であれば年金の支給開始年齢が早く、年金開始年齢が55〜59歳というケースがあるのです。
  年金相談では、「年金の請求書は年金が貰える誕生日の3ヵ月前に届きます」という説明をしていました。いつもならこれで問題はないのです。
  ところが、今回は実際に年金を貰える年齢なのにお手元に請求用紙が届いていない。
  一旦保留として、年金事務所に「59歳で支給開始の方には裁定請求書は送付されないのですか?」と確認をしたところ、「送っていません」とのことでした。
  そうなると、一般的に利用されている汎用の「年金請求書」を使って手続きをしないといけなくなります。これは事前送付の請求書と違い、住所や氏名が打ち出されていないため少し面倒です。
  「65歳から貰う国民年金を前倒して貰う、いわゆる繰上げ請求のように本来貰う年齢以外の年齢で年金を請求される方は別にして、通常の場合は住所間違い等で年金請求書が届かない場合を除いて『事前送付の請求書』が送られてきます」と普段ご説明していましたが、その例外があったのです。
地域によって傾向が微妙に違う年金
  年金にはお住まいの地域ごとに微妙な傾向の違いがあります。
  遠洋漁業の盛んな地域、静岡県の清水や焼津、高知県の室戸、宮城県の気仙沼や塩釜、そんな元船員さんの数が多いエリアで仕事をされている社労士の方や、年金事務所の職員の方は、今回のような話も「そんなことはよくあること」ですぐに説明ができたのかもしれません。
  ところが、大都市や内陸部で年金の仕事に携わっている方は、船員保険の期間のあるお客さまに遭うことはあまりありませんから、実際に出会うとちょっと緊張してしまいます。
よくわからないからと、いい加減な対応をすると…
  普段から年金を仕事としているわけですが、年金の仕組みはとても複雑で、普段は目にしない船員や坑内員の規定が何時でもスッと思い浮かぶ訳ではありません、普段持ち歩いている年金の解説書は薄いので船員の特例についてはあまり書いてありませんし、分厚い本には詳細な記述がありますが、まさかお客さまの前で開いて調べるわけにもいきません。しかし即答できるかどうかは別にして、船員の支給開始の例外規定があることだけは頭の片隅にありました。
  年金相談において、この「頭の片隅にある知識」というのはとても大切なのです。
  もちろん、よく調べもしないでいい加減な回答はできません。年金に限らず一般的に仕事上で、お客さまにあやふやな状態でものを言うのは何も言わないより悪く、事態を悪化させることは多くの方が経験済みだと思います。しかし片隅に何か引っかかるものがあれば、「あれっ!?」という気持ちになり、自然と「待った!」がかかります。
  もし引っかかりが全くなかったら、「変ですね、厚生年金は60歳からなのにおかしいですね」ということで相談が終わり、後から59歳で年金が貰えるとわかって「何だ、お前貰えないようなことを言っていたけど貰えるじゃないか。前の説明はでたらめではないか?」とクレームがついていたかもしれません。
すぐに調べる癖を
  「昔はねえ、船乗りは普通のサラリーマンの3倍、4倍の給与を貰うのが当たり前だったんだけどねえ」とご相談者がこぼされました。なるほど、そんな古き良き時代もあったのですね。
  ところが、今ではどんどん船員は外国人が雇用されるようになり、日本人船員は激減し、待遇も下がっています。年金も厚生年金に統合され、昔のような船員であった期間の年金額や年金加入期間の割増という美味しい特例も徐々になくなっています。近い将来、船員の特例の対象者はいなくなり、制度は消えていきますが、「年金制度は歴史そのもの」であると、認識を新たにしました。
  皆さんは将来に向かってのライフプラン等をお話しされるのですから、こんなレアケースのことを気にする必要は全くありません。しかし、「年金は怖い」ということを肝に銘じ、「わからないことはすぐに調べる」癖をつける必要があることが今回のケースからおわかりいただけたのではないでしょうか。
2011.11.21
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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