いくらなんでもこれだけ平均寿命が延びたらまずいだろう……普通はそう思います。これだけ(男性で14年、女性で16年)平均寿命が延びて、他の条件(支給水準や保険料水準)がまったく変わらないのなら、年金財政が厳しくなるのは目に見えています(実際には保険料の値上げ等も別途きちんと行なっているわけですが)。
厚生年金は、当初は55歳の支給開始だったものを、昭和32年から16年かけて60歳開始にし、平成6年から24年かけて(男女に5年の差があります)65歳開始に下げてきました。55歳から65歳というと10年しか開始年齢は下がっていません。最近議論されているのは支給開始年齢をもっと下げることを目指しているわけですが、国民年金については50年間ずっと65歳支給開始は変わっていません。別な角度でみれば「国民年金はよくここまで支給開始年齢を守っていたな」ということになります。
昭和36年当時(男性は平均寿命くらいで年金開始、女性は5年くらい年金を貰う計算)の状況を現在に置き換えるならば、男性75歳、女性82歳くらいが年金支給開始年齢になるでしょうか。厚生年金であれば、男性70歳、女性78歳くらいが支給開始年齢になります。男女差を除外すれば、一律国民年金78歳、厚生年金73歳あたりが年金支給開始年齢になります。
もちろん、これは単なる数字遊びレベルの話で、実際の年金問題を考える資料として使えるものではありません。開始年齢繰り下げに加えて支給水準そのものを下げて財政上の対策をしたときもありますので、そういった精査も必要です。
しかし「ここ50年間でびっくりするほど平均寿命が延びた」ということは間違いなく、何らかの対策(保険料上げ、給付下げ、支給年齢の引き下げ)のどれか、またはいずれをも実施しないと年金財政が厳しくなることは容易に想像できます。今でも少しずつ平均寿命は延び続けていて(一時的にインフルエンザ等で短くなったりすることはありますが)、その傾向はまだ止まっていません。
支給開始年齢が変わらないということは、裏を返すと若い人ほど有利という捉え方もできます。平気寿命の短い昔の人に比べて長い間年金を受け取れるということですから。
今回の厚生労働省の年金改革の資料発表は唐突な感じがしましたが、冷静にみると、やはり現状では年金改革が必要かなと思う資料がいくつも載っています。平均寿命の延びも考慮すべき要素ということで触れてあります。
厚生労働省資料は、厚生年金の支給年齢の繰下げについては丁寧に記載してありますが、国民年金は「方向性は繰下げ」だけれど、具体的なシミュレーションや詳しい説明は入ってないのです。なぜでしょう。厚生年金だけ先行して支給開始年齢を繰り下げるのでしょうか。
そのような不明なところもいろいろありますが、将来のために感情的にならず、年金制度の持続維持のための方向性を考えなければいけません。しかしここ数年の(元)社会保険庁の職員の不祥事、年金の記録漏れなど、年金はあまりにも信頼を失っています。正論を述べても、すべて頭ごなしに「信用ならない」と否定されてしまう空気があるのが気になります。