第125回 ちょっときな臭い年金改革
社会保障審議会で
9月の社会保障審議会年金制度部会では、専業主婦世帯で、第2号である夫が納めた保険料は夫婦で納めたものとみなし、受給の際にはそれぞれ半額を支給するという、いわゆる「2分の二乗方式」の問題が検討されました。
さっそく、これに関する報道があちこちでなされました。そしてその中で我々が最も気になったのが、「遺族年金の問題」です。
一体何が問題なのか? これについて今回は考えてみましょう。
2分の二乗方式とは
現在の年金のしくみでは、夫が稼いだ収入がずっと40万円だったと仮定すると、その報酬額に対応する年金が一定の年齢(生年月日により異なりますが60〜65歳開始)から支給されます。
そして夫が死亡すると、こんどは妻がその年金に基づいた遺族厚生年金を受け取ることになります。その額は、妻に厚生年金期間(会社で働いた期間)がない場合は夫の受け取っていた年金額の4分の3を受け取ることになります。この例では夫の報酬額30万円に相当する額で計算された年金額です。
それを今般の社会保障審議会年金部会に出てきた制度の見直し案では、当初から夫が支払った保険料を夫と妻に半分ずつに分ける方式を取るということですから、老後は夫が20万円に相当する年金、妻が20万円の報酬に相当する年金を受け取るように形を変えます。夫婦が元気な間は現在の夫のマルマル40万円に相当する年金と同額ですので、その家計に影響はありません。
ところが、夫が死亡した場合は異なります。
夫が死亡すると、夫の受け取っていた年金の20万円相当分は夫の年金ですから無くなります。妻は自分の年金をずっと受け取れますが20万円に相当する分だけが老後の年金になります。
もうお気づきかと思いますが、現在ならば4分の3の額を受け取れるはずだったものが半分になっていますね。つまり、25%の減額になるのです。
また逆の場合、専業主婦の妻が先立ち、夫が残った場合はどうでしょうか?
現在であれば妻が先立っても夫自身の厚生年金は減りませんから、妻が亡くなっても全く変わらずマルマル報酬額40万円相当の年金を受けることができます。
しかし夫がサラリーマンで、妻が専業主婦の場合、給与の額をお互いの年金に振り分けてしまうと、妻が先立った場合には妻が受け取っていた厚生年金分が無くなるわけですから、家計全体で捉えると受け取ることのできる年金は半分になってしまいます。
共働きで夫より妻の方が稼ぎが多い場合や、夫も妻もほぼ同じような収入の場合は受け取る年金額が少なくなることはないということも考えられますが、これは全体を見れば少数例になります。多くの場合は、「どちらかが先に死ぬと年金の半分が消失し、受け取ることのできる年金が減ってしまう」ということになります。
2分の二乗方式が年金制度部会で検討課題とされたとき、多くの実務家は、「年金を世帯単位から個人単位へと切り替える」という美しい理由の裏に「実質的に年金を減額させる」という、いわば目に見えない年金改革の臭いを微妙にかぎ取ったようで、あちこちのブログ等で批判が書かれています。
離婚時年金分割の時も
離婚時年金分割ができた場合も、全く同じようなことが議論されました。
離婚時年金分割も2分の二乗方式と同じく、専業主婦世帯においては婚姻期間中の夫が稼いだ給与にかかる年金は折半という形で妻の老後の年金になります。そうすると、婚姻期間中に夫が死亡した場合は4分の3の遺族年金(夫の独身時代も含めて)が受け取れるのに、離婚時年金分割を利用すると半分(しかも夫の独身時代の期間は入れずに)しか受け取れなくなってしまうのです。
年金なんか考えもしない若い頃に離婚する場合はともかく、もう60歳に近いような年齢の場合、実質的に夫婦関係が破たんしていても、自分が一人残された時の生活を考えると、なかなか離婚に踏みきれないとうい話は聞いたことがあります。結局、仮面夫婦のような状態が続くわけです。
言葉遊びをしないで正直に
年金が減額するような直接的な影響がある場合には、きちんとした説明責任が伴います。ところが今回の報道は、「触れただけ」程度のものが多かったように見受けられます。
一番国民が嫌がること(給付水準下げ、保険料上げ、支給開始年齢を後ろにずらすなど)は、実体が想像できない名称を付けたり理解しづらい説明をするのは止めて、ストレートに議論をしないといけません。
そこを軽視してしまうと、「役人に騙された感覚」が国民の間に浸透し、年金不信がさらに深まってしまいます。
2011.12.12
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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