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知ってビックリ!年金のはなし
第127回 物価下落分(物価スライド特例分)の調整とは?
 
社会保障分野の改革素案
  「政府は平成23年12月20日、社会保障・税一体改革関係5大臣会合を首相官邸で開き、社会保障分野の改革素案を取りまとめ、その中で本来より2.5%高くなっている年金の特例水準(物価スライド特例分)を、平成24年10月からの3年間で解消することを盛り込んだ」
という報道が新聞やテレビ等でなされています。今回はこれを取り上げてみます。
元はと言えば
  年金の計算の仕組みは非常にわかりにくく、これを説明するだけでも数十ページは必要です。複雑過ぎて理解する前に迷路に入り込んでしまう可能性がとても高いので、ここでは簡単に説明します。あくまでも簡易な説明ですので正確性には若干欠けることはご容赦ください(深く興味がある方は別の解説書等でご確認ください)。
  「年金は、物価が上がったら上がる、下がったら下がる」、これが基本原則です(完全に物価上昇分を反映しない仕組みを現在は入れていますが)。
  ところが、政府は平成11,12,13年度の物価下落分について、それを反映せず据え置きするという措置を取りました。その過剰な年金給付分はどう解消するかといえば、「後日物価が上がった時に、年金額を上げないようにして相殺する事」という解消法を当初は考えたのです。さて、その結果はどうなったでしょうか?
過剰給付分は全然埋まらなかった
  ある人が、平成11年に年金を1,000円受給していたと仮定しましょう。年を経るにつれてその年金額が実際どのように推移していったかを示したのが下の表です。
  
年度 実際支給額(円) 本来支給額(円)
平成11 1,000 1,000
平成12 1,000 997
平成13 1,000 990
平成14 1,000 983
平成15 991 974
平成16 988 971
平成17 988 971
平成18 985 968
平成19 985 968
平成20 985 968
平成21 985 977
平成22 985 963
平成23 981 956
  当初の(物価が上昇しても年金額を据え置くことにより過剰給付を解消する)意図が僅かでも反映されたのは、唯一平成21年度のところです。平成21年度に本来支給額が上がっているにもかかわらず、実際支給額が据え置かれているのが分かるかと思います。これにより、平成20年度より過剰給付が少し減ったことになります。過剰給付解消まであとひと息かと当時は思われました。
  しかし平成22年度に再び物価下落が起き、また過剰給付額が増えてしまいました(平成22年度の実際支給額が据え置きだったのは平成11〜13年度の据え置きとは別の理由なのですが、ここでは触れません)。
  これを見ると、ただでさえ年金原資の確保に苦しんでいる担当者の苦悩が浮かびます。年間の年金支給額はおよそ50兆円、過剰給付が仮に1%でも5000億円の大金です。それが延々と(既に10年以上)累積し、現在も解消の見込みが立っていないのです。
減額は年金財政が破綻しないための方策
  社会保障分野の改革案が通れば、この平成11〜13年度の「年金額据え置き」の恩恵を受けた年金受給世代の方の年金額が、物価下落以上に下がることが当然予想されます。
  年金額が下がると、「年金制度はもう限界じゃないか?だめなのではないか?」と危惧して相談される方がたくさん出てきます。中には物価が下がった分だけ年金額が下がっただけでも「もうそろそろ年金はつぶれるのでしょう。年金額が下がるのがその証拠でしょう」と強くおっしゃる方もいらっしゃいます。
  しかし、「払い過ぎていた年金額を下げる」ということは、逆に「これから年金制度を維持していくためには有効な措置を取った」ということなのです。払い過ぎを是正するということは当然ながら若い世代(年金保険料を負担する世代)の負担を軽減することにもつながります。もし幸運にも来年か再来年あたりに物価上昇が起こり、特例水準と言われる過剰給付が埋まればよいのですが、これから先もデフレ状態が続いて、過剰給付が解消しないのであれば年金制度的には大問題です。過剰給付は必ず後の世代に禍根を残します。
  政権運営の面から見ると、この制度は年金受給世代にとってマイナスととられてしまいがちな制度であるため、このままでは選挙にマイナス効果となってしまうかもしれません。「年金制度の崩壊の予兆では?」というような誤解を招かないように、もう少し行政側からの丁寧な説明・説得も必要でしょう。
2012.01.16
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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