第128回 日本の社長さんの受難
稼いでいる社長さんは・・・
日本の社長さんの年金ですが、いよいよ受難の時代になってきました。
社長さんは高額所得者であるだけに、厚生年金の保険料を他の人より多く払ってきています。65歳に達して、さて年金がもらえるかなあ、と思いきや、社長のまま高い給与を受け取っている間は、在職老齢年金の制度があるため、厚生年金については支給停止となるのです(国民年金は受け取れます)。若い頃から、「たくさん保険料を払い続けてきたのになぜだ?」と不満を漏らしている人も多いことでしょう。
65歳を過ぎても、現役世代以上の報酬を受け取っていれば、生活には支障がなく、金銭的な不満はないのでしょうが、払い続けてきた保険料に相応する給付を期待していた人にとっては、納得いかないのも無理のないことです。
以前は70歳になれば、社長としての報酬額に関係なく厚生年金も国民年金も全額受給できましたが、平成19年からは制度の変更に伴い70歳以降も支給調整がそのまま続き、「社長を引退するまで」は厚生年金はもらえません。「昔の社長はよかったな」と思っている方も多いかもしれません。
もしも、非常勤取締役の会長になって、厚生年金の適用事業所に勤務する者でなくなるようなことでもあれば話は別で、報酬が高くても全額年金がもらえる可能性もあります。しかし、そうなると今度は会社の経理的にそんな高い報酬を非常勤取締役に支払うのか、という年金とは別の点が問題となる可能性が高く、悩ましいところです。
さらなる追加措置検討
そんな社長さんたちにさらに追い打ちをかけるような話がまた持ち上がっています。
「政府(民主党)が、『社会保障と税の一体改革』で平成24年度に提出する法案に関し、給与が高いサラリーマンの厚生年金保険料引き上げの再検討に入った」というニュースです。政府は平成23年6月にまとめた一体改革原案で、厚生年金保険料の算定基準となる標準報酬月額の上限(62万円)を見直し、高所得者の保険料を引き上げることを盛り込みました。厚生労働省は、健康保険と同じ121万円に引き上げる案を社会保障審議会年金部会に提示しており、上限に該当する高所得者の月額保険料は労使の総額で10万2000円から19万9000円に跳ね上がることになります。以前からくすぶり続けていた、「標準報酬月額の上限をさらに高くする」という案の検討が、再びなされることになったのです。
保険料の納付に関しては70歳までで終了するため、70歳を過ぎた社長さんの場合、年金がもらえないというだけの不満ですが、65歳から70歳までの報酬の高い社長さんは、65歳を過ぎて、やっと年金がもらえるようになったと思っても、「給与と調整されて年金がもらえない」+「保険料が跳ね上がる」というダブルパンチです。まさに高額の報酬を得ている社長さんが狙い撃ちされるということですね。
年金なら将来の給付額が増えるのですが・・・
基本的に掛け捨ての健康保険と違い、現状の公的年金は支払った保険料が将来の年金額に反映します。
ですから、標準報酬月額の上限62万円が121万円となったとしても、それが年金額に跳ね返るのであれば高額所得者にメリットがあり、逆に国には財政的にあまりメリットがないということになります。
しかし、高額所得者の年金額が多くなり過ぎないように、減額調整をする案が同時浮上しているということで、さすがに政府側もぬかりないようです。
ただ、それ以前に現在の仕組みであっても高い報酬を得ている社長さんは、引退しないで社長でいる限り、「65歳となっても厚生年金は支給が調整され、大半の場合ゼロ」なのですから関係はありません。
それでも年金は経営が傾いた時の最後の「セーフティネット」
それでは高額所得者の社長さんにとって、「厚生年金や国民年金は全く無駄なものか」といえばそうではありません。
以前にも書いたと思いますが、厚生年金、国民年金は差押禁止債権という手厚い保護がなされています。家や土地、株、国債等あらゆる個人資産を担保として資金を借りて会社を運営している中小企業の社長さんは、その会社が倒産と言う最悪な結果となった時、基本的にあらゆる財産は債権者に差し押さえられます。それにより、老後のための預貯金も全くなくなる可能性が高いのです。しかし年金は、「差押禁止債権」ですから、受給権は残って年金を受け続けられます。公的年金は経営者にとって最後の「セーフティネット」になっているのです。
経営が苦しい会社の社長さんは、少ない給与と年金で生活をやりくりしているのです。65歳を過ぎてもたくさんの収入があって年金が停止されるような社長さんは、「自分は事業が成功して運が良かったから年金がもらえない」と諦めるしかなさそうです。
2012.01.23
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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