第13回 遺族厚生年金の受け取り方が変わります
平成19年4月から変わります
今年の4月からの年金改正で、遺族厚生年金の支給方法が変わります。支給総額は全く変更がないため、軽くみられがちな部分ですが、今ある年金制度をさらにわかりにくくするという批判のある改正で、どうお客さまに説明しようかとあれこれ考えているところでもあります。
今回はその話です。
以前の制度は簡単だった
以前の説明は簡単でした。遺族厚生年金は、
@ | (夫死亡による)遺族厚生年金(夫の老齢厚生年金の4分の3と同じ) |
A | (夫死亡による)遺族厚生年金の3分の2+妻自身の老齢厚生年金の2分の1 (夫の老齢厚生年金の2分の1+妻の老齢厚生年金の2分の1と額が同じ) |
B | 妻自身の老齢厚生年金 |
の3つのうちでもっとも高いものを選ぶものでした。
Aの受け取り方法は若干説明が面倒になりますが、年金相談の現場で大多数を占める「短期間しか厚生年金の加入がない妻」の場合には、こういった説明をするまでもなく、「夫が死亡したら夫の遺族年金を貰ってください。ご自身の老齢厚生年金は捨てることになりますがあきらめてください」とお客さまに説明することで事が足りたのです。
ところが、今年の4月から遺族年金の受け取り方が変更になります。年金額は上の@・A・Bの中でもっとも有利なものというのは変わりません。しかし、まず「妻自身の老齢厚生年金」がある人はそれを優先して受給し、それに「(夫死亡による)老齢厚生年金」が乗るという形になります。その「(夫死亡による)遺族厚生年金」の限度額は、上の@・Aの各々で計算した額で最も多い額から「妻自身の老齢厚生年金」を引いた額(Bの場合は遺族厚生年金はありません)という説明になります。
説明が面倒くさくなるだけ?
具体例がないとわかりにくいので例を挙げて説明しましょう。
夫の老齢年金が180万円(厚生年金100万円、国民年金80万円)の人がいたとします。妻は、ほんのちょっと会社に勤めていた期間があり、厚生年金を10万円、国民年金を80万円の合計90万円の年金を受けていた。夫婦ともに健在であればこの全額をもらえます。ところが、ある日夫が亡くなってしまった場合の例です。
この場合、今までは夫の厚生年金の4分の3=75万円と、自分の年金10万円を比較して、夫の年金のほうが高いのは明らかですから、夫の遺族厚生年金を選択して75万円を貰い、それに自分の老齢基礎年金の80万円を貰うという形でした。妻自身の老齢厚生年金の10万円はもらえない(選択しない)という説明で全く問題はなかったのです。
ところが、今年の4月からそれが変わります。まず自分の10万円は自動的に自分の年金として優先的に支給されます。その上に夫の遺族厚生年金が乗る形になるのですが、遺族厚生年金は全額(夫の老齢厚生年金の4分の3)が乗るわけではなく、65万円だけとなります。要するに妻自身が貰う10万円の老齢厚生年金部分が引かれるわけです(75万円が支給額という点では以前と全く同じ)。
(参考)http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/kaikaku/04kaisei/dl/22.pdf
厚生労働省の説明としては、「自分の働いた年金を捨てることなく受け取るようにし妻側の不満を改善した」ということなのでしょうが、総支給額が全く変わっていないのに、これで不満が改善できるのでしょうか。年金相談の現場では、単に制度をややこしく説明しにくくしただけの話じゃないかと受け止められてもおかしくない改正です。
うがった見方をする人もいますが
人によっては、遺族厚生年金は税金の対象とならないのに、老齢厚生年金は税金の対象となるのだから、(総額が変わらないのに)まず妻の老齢厚生年金を全額支給して課税対象とし、非課税の遺族厚生年金部分を圧縮する改正は、課税の対象となる部分が増えるだけの増税措置ではないかと批判する人もいます。確かに、意図はどうであれ、その可能性はあります。
今までのように夫の遺族厚生年金と妻自身の老齢厚生年金のどちらか(上のAの例外もありますが)と割り切った説明のほうがわかりやすく一般の人の誤解がないと思います。
制度実施後、混乱が起きないといいのですが...。
2007.03.19
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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